34人が本棚に入れています
本棚に追加
第18話 疑惑
アパートの場所も、部屋も確認済みだった。
古賀は階段を上ると205号室の前で立ち止まった。
沙耶という女性には似つかわしくないアパート。
派手な世界で生きていそうな女だったが、このアパートは築年数もたっており、今すぐ解体すると言われても不思議ではない。
だからこそ、わざわざこんなところに住んでいることに怪しいと思わざるを得ない。
(夜中に女のアパートに侵入する男、か)
(こんなところが見つかったら自分の人生終わるな)
そう思いながら細いピンを取り出し、ネットで調べたように開錠を試みる。
何を探しに来たのか自分にもわからなかったが、何かを探す必要があると、古賀には妙な確信があった。
単純な鍵だったおかげで、思いの外簡単に鍵は開いた。
古賀は念のため周りを見渡してから部屋の中に入った。
沙耶の仕事のシフトは事前に確認してある。今夜の帰りは遅い。
懐中電灯で部屋の中を照らすと、きちんと片付いた部屋の中にはほとんど物がないことがわかった。
(本当にここで生活しているのか?)
布団が部屋の隅に重ねられており、開きっぱなしのままとなっているふすまに違和感を感じた。
引手を持ち、ふすまを閉める。
「なんだ……これは?」
隠れていた方のふすまには大きな模造紙が貼ってあり、そこには大量の写真と、その下にはメモが書き込まれていた。
真ん中の怜奈の写真には赤いペンで丸印がついている。
そこから相関図のようにひかれた線の先に、父母と思われる写真や、友人の写真が多数貼ってある。その中には古賀の写真もあった。
写真の下には、「絶対にダメ」と書かれている。
(どういう意味だ?)
右端に大学生らしい2人の男の写真があった。2人の写真の上には大きくバツ印が書かれており、下には「動画?」と書かれていた。
古賀はその顔に見覚えがあった。確か殺された、と随分ニュースで騒がれていた学生。
友人同士が立て続けに殺され、一人の方は、拷問されたかのような残虐な殺され方だったということもあり、連日のようにテレビで報じられていた。
確かまだ犯人は捕まっていない。
(これが怜奈の言っていた同じ大学の殺された学生なのか?)
2人の写真の下には別の男性の写真がはってあった。
あけぼの書店本社の飯坂部長。
これは報道などされていない。噂では、長年の横領が発覚して自暴自棄となり、ビルの屋上から飛び降りたのではないか、ということだったが、この写真にも大きくバツ印があった。
怜奈は歩道橋から突き落とされたと言っていた。幸い大事にはいたらなかったが。
(やはり、怜奈を突き落としたあの女は、沙耶なのか?)
古賀の写真もここにある。
(このバツ印やメモが意味するところが想像通りなら、自分も狙われているということなのだろうか?)
古賀のからだを、冷たい汗がじっとりと包み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!