第1話 知らない女

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第1話 知らない女

じりじりと太陽の熱が肌を焼くような暑い日だった。 だからアイスクリームショップの店内は、より一層冷気を感じることができる。 数十種類はあるフレーバーの中から、川島玲奈が迷わず選んだのは、少し苦味の効いたエスプレッソ味のアイスだった。 「エスプレッソのシングルをカップで」 店員に聞かれる前に、一言で注文を終え、支払いのためにスマホをかざしている様子を、すぐ近くから女性がじっと見ていた。 女性は、まるで怜奈の後を追うように店に入って来て、アイスを選んでいる間も、ずっと視線を向けていた。 怜奈もそのことには気が付いていたものの、知らんぷりを決め込んで、このまま店を出てしまうつもりでいた。けれども、あまりにも長い間見続けられていたため、あえて店を出る前に思い切って声をかけた。 「何かご用ですか?」 思いがけず声をかけられ、女性は驚いた顔をみせた。 真正面から対峙すると、女性は整った顔立ちの美人で、年の頃は大学生の怜奈とあまりかわらないのではなかと思われた。 「ごめんなさい。何にしようか決められなくて迷ってたら、あなたがエスプレッソのアイスを頼んでいたから、美味しいのかなって気になってしまって、つい……」 「そうだったんですか」 「それに……実を言うとこういうお店に入るのは初めてで、注文の仕方がわからなくて……」 女性は小さな声で、恥ずかしそうに告げた。 ほっとした反面、ストーカーか何かと勘違いしてしまったことに申し訳なく思い、怜奈は返事を返した。 「美味しいですよ、これ。アイスなのにちょっと苦みがあるんです。気になったのがあったら、スタッフに言うとテイスティングもできますよ」 「そうなんですね」 女性の目が輝いた。 「私も同じのにしてみます。ありがとうございます」 女性は恥ずかしそうに頭を下げると、怜奈が見ている前で、ショップのスタッフにサイズやトッピングの有無など、一つ一つ聞かれながらアイスを注文していた。 その様子を見て、玲奈は店を後にした。 外は先ほど店に入った時と変わらず日差しは強く、アイスはすぐに溶けてしまいそうな勢いだった。 (きれいな(ひと)だったな) 怜奈はそんなことを考えながらアイスをスプーンですくった。 アイスクリームショップの店内から、ガラス越しに怜奈をじっと見つめる視線に気がつくこともなく。
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