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第4話 きっかけ
沙耶は、怜奈のことを調べていく過程で、大学1年の時に半年くらい交際していたという片桐直哉の存在を知った。
(怜奈はどんな男を好きだったんだろう)
好奇心で数度尾行した。
直哉はよく友人とつるんでナンパをしているような男で、怜奈がどうしてこんな奴にひっかかったのか理解に苦しむと同時に、少しがっかりした。
(もっとお利口さんだと思っていたのに)
直哉からは何も得るものはなく、これ以上つけ回すのは無駄だと判断しかけた時だった。
人目を避けるように、喫茶店に入る直哉に、沙耶は違和感を感じた。
それで、後を追うように店に入った。
店内は薄暗く、派手好きな直哉には似つかわしくない作りで、昔ながらの布張りの椅子は、ところどころ薄汚れていたし、テーブルにはご丁寧にビニールカバーがかけられていて、間にドリンクのメニューが挟まれている。
沙耶は、直哉が見える場所に座ると、店内に置いてあった週刊誌を読むふりをしながら観察を続けた。
しばらくして、アイスコーヒーを飲んでいる直哉の前に女性が座った。
化粧を直すふりをしながら、2人の様子をうかがう。
「ねぇ、お願いだから。これで絶対あの動画削除してよ」
小さな声でそう言いながら、女性が封筒を直哉に渡すのが見えた。
直哉が封筒の中身をその場で確認する。
厚みから見て50万はあるだろうか。
「サンキュ」
「ちゃんとスマホから削除するの確認させて」
「いいよ、ほら」
直哉が女性にスマホを向けながら何か操作をしている。
女性はそれを見て納得したのか席を立ってすぐにその場を去って行った。
女性がいなくなると直哉の元へ野崎信也がやってきた。
信也は、直哉とは仲が良いらしく、一緒にいるところをよく見かけた。
最初、沙耶は店内に足を踏み入れた時、信也がいることに気がつき、てっきり待ち合わせをしているのだと思った。しかし、直哉は信也には目もくれず、少し離れた席に座った。
どうやら示し合わせた上で、信也は少し離れた席で二人のやりとりを見ていたらしい。
「どうだった?」
「50」
「まじで! で、あれ削除したの?」
「お願いされた通り『スマホからは削除』したよ。PCにコピーとってあるけど」
「クソだな」
「保険だよ。なんかあった時の」
「歴代彼女コレクションもそろそろ売る?」
「だな」
「あ、この間の動画、また送っとくよ」
「あざーっす!」
そう言いながら2人はスマホを操作し始めた。
(共有される動画?)
野崎信也のスマホを見る方法を考えながら、沙耶は目の前のアイスコーヒーを口にした。
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