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第5話 3人目
沙耶にとって貴重な時間が削られるのは惜しかったが、一カ月ほど信也の行動パターンを探った。その結果、週の内月水の2日間は塾講師のバイトを終えた後、まっすぐ家に帰るということがわかった。
塾のある駅から自宅までの道のりの中で、河川敷には唯一防犯カメラもなく人通りもほとんどない。
イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたせいで、信也は後ろから人が近づく気配に気がつくのが遅れた。そのせいで、突然押し当てられたスタンガンに、筋肉が収縮し、声を出すこともできないまま動けなくなってしまった。
よくドラマでスタンガンを当てられた人物がそのまま気絶するシーンをよく見るがあれは嘘だ。護身用のスタンガンでは、しばらく動きを封じる程度にしかならない。
沙耶は何もできないでいる信也に、持っていた麻酔を注射した。
気を失っている信也の指をスマホに押し当て、ロックを解除すると、沙耶は保存されたデータをひとつひとつ見ていった。
目的の動画は簡単に見つけることができた。
SNSの類もパスワードが保存されていたので簡単にログインすることができた。こちらも念のためチェックする。
直哉からの受信はあるが、どこかに送信した形跡は見当たらない。ネットの履歴やお気に入りページはゲームに関するものばかりで、フリーメールすら使っていないようだった。
次に、持っていたリュックのファスナーを開けて中を探したが、あるべきものがない。
信也は、バイトまでの空き時間など、よくノートPCを見ていた。そのノートPCがリュックの中にない。
動画の保存されたフォルダがスマホのホーム画面にあったことで、沙耶は既に苛立っていたが、いつも持ち歩いているはずのノートPCがなかったことが、更に怒りを助長させた。
マンションの部屋にもなかった場合、計画に大きな狂いが生じることになる。
一瞬のスタンガンの痛みしか味合わせることができなかったことも腹立たしい。
けれどもここでは誰かが通りかかる可能性がないとはいえない。時間はかけられない。
沙耶は近くにあった石を何度も信也の頭に振りかざした。
まるで突発的に起きてしまった殺人のように。
とっくに動かなくなった信也の持ち物からマンションの鍵を探すと、スマホや財布、時計などもカバンに入れ、沙耶はその場を立ち去った。
信也をそのまま置いて来てしまったので、見つかるのは時間の問題だ。
沙耶は急いで信也のマンションに向かうと、手に入れた鍵で部屋の中に入り、中を見渡した。
目的のノートPCは部屋のデスクの上に置きっぱなしにされていた。有難いことに、パスワードはかかっておらず、中に動画も保存されていなかった。PCにはウィルスソフトすら入っていない。
予め調べていた通り、信也は電子機器の類にはあまり精通していないようだった。
それでも念のため、削除されたデータも復元してみたが、これといって大したものはなかった。
出来ることなら家を物色した者がいることを悟られたくない。だからノートPCを持って帰らなくて済むのは助かった。
部屋の中にはDVDの類も見当たらない。
出来るだけ、元あったように部屋を整えて、沙耶は部屋を後にした。
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