ただのお粥で言い訳していいわけ?

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 嘉穂はおいであそばした分葱を数本取って冷蔵庫に突っ込むと、炊飯器を開けた。昨日のご飯が残っているあたり、偉い。  さて始めましょう。病の時こそ滋養のあるものを! 欠食言語道断!  お茶碗小盛り程度を一人用の小さい土鍋にかけ、水を足してコンロへかしゃり。ここで蓋を閉めて加熱はよろしくありません。割り箸を挟んで、蓋にはその上に鎮座していただきます。ええ。お焦げができてはいけないのです本日は。焦げは胃を攻撃する。  おっと、忘れておりました。ここで少しだけ和出汁を加えておきます。味が染み渡って食べやすくなります。  繊維の多い野菜は消化によろしくないので、本日控えめに。大根と人参、もちろん、人参の葉っぱも使います(繊維質の硬い大根葉はまたの機会に。今日は、根元を切って水栽培)。細かく刻んでお味噌汁行き。こちら、今日は煮干しではなくインスタント出汁にするくらいは許されるでしょう。  両方のお鍋をコトコト言わせておいて、今日の脇役で主役は分葱です。脇役が映えねば物語も面白くはなりません。脇役激推しの嘉穂にとっては主役だけでいいわけないのです。  思いっきり刻みます。白いまな板が鮮やかな緑の点描で染まっていきます。  おっと、このあたりでお粥の小鍋が良い塩梅になってまいりました。いいですね。  そろそろ出来上がりとお思いか? 甘いですよ、そこの方。ご覧なさい。炭水化物、食物繊維は揃えど、蛋白質が米と味噌の蛋白くらいしかないではありませんか。これでは成人女性どころか子供にも足りない。  冷蔵庫から取り出すべきは、新鮮な卵ひとつ、アミノ酸組成満点の優秀な蛋白源。  こちら、ここん、と殻を打ちつけ真っ白なお粥に明るいお月様。はぁぁ、このまま食べたら絶対おいしいやつです。  しかし嘉穂体調、ちょっと待って。あなたは今日、胃が悶えているはず。  生卵なんて食べていいわけないじゃない!  いくら持久力なら任せて体力ありますの嘉穂でも、カンピロバクターは当然ながらサルモネラ菌に耐えられるかどうかの瀬戸際かもわからぬ。  月見に誘われる艶めきは、崩して差し上げてよ!  食中毒阻止。胃腸を破壊する悪質な菌は滅せよ。かき玉に成り下がっていただきます。  いえ、成り下がってとか言いましたが、大丈夫。あなたには有力な参謀が。ご覧なさい。  刻んだ春らしい緑をお粥の中にはらり。
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