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やりなおし、青春デイズ
エイプリルフール。
それは、ちょっとした冗談や嘘を言ってもいい日。元々海外の風習だったのが、大正時代とかそのへんに日本に渡ってきたものらしい。国や地域によってはもう少しルールが厳密で、“午前中にだけ嘘をついてもいいけれど、午後に嘘をついたらみんなに叱られてしまう”日でもあると聞いている。
クリスマスやお正月のように、大きな盛り上がりがあるわけでもない。
多くの日本人にとってはなんとなく“ちょっとしたジョークで身内を揶揄う日”くらいでしかないだろう。
でも、私にとっては。
「……やだな」
机の上。私は机の上に置いた一枚の葉書を見つめて、ぽつりと呟いていた。
「ほんと、やだな……」
それは、今年貰った年賀状。倉敷家の一家が、家族全員の名前を並べて送ってきたものだった。倉敷家は、小学生の時うちの近所に住んでいた一家である。私が小学校六年生になってすぐ、家族そろって遠い地方に引っ越してしまったのだ。昔は、私もこの一家に年賀状を出していた。次男の“倉敷愛斗”が、半ば幼馴染のような関係だったからである。向こうの方が一つ年下であったけれど。
彼等は幼い頃から、我が家に年賀状を送ってきてくれていた。両親も、家族ひとまとめの年賀状を毎年を送っているはずだ。私が“個人的に”葉書を送るのをやめても、一応家族同士の縁は切れていない。ちょっと変わり者の一家で、毎年家族の写真ではなく愛犬のゴールデンレトリーバーの写真ばかり送りつけてくるため、彼等の現在の姿や近況はほとんどわからなかったけれど。
「はあ……」
三月も残りわずか。
もうすぐ四月になり、学生にとっては新学期が巡ってくる。今年で大学二年生になる私も例外ではない。
それなのに、今の時期にもなって机の上に年賀状を出し、ため息をついているにはそれなりに理由があるのだった。
もうすぐ、憂鬱すぎるあの日がやってくる。エイプリルフール。忘れようにも忘れられない、とても大事な日が。
そして私にとっては、重くのしかかる“罪を犯した日”が。
「どうしよう」
年賀状には、倉敷家の現在の住所と電話番号が書かれている。そして、時々彼等と電話でやり取りをしているらしい母から、つい昨日こんなことを言われたのだった。
『愛斗くん、東京の大学合格したんですって。今年から、東京で一人暮らしするみたいよ。またこの町に来るんですって!』
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