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倉敷愛斗。
私にとっては、幼馴染というより弟に近い存在だった。何故なら幼い頃から長身で喧嘩が強かった私と違い、彼は女の子のように小柄で、華奢で、可愛らしい顔立ちをしていたのだから。
ついでに、ちょっと女の子っぽい服が似合う子だった。別に本人が性的少数者とかそういうのではなくて、単に“己に似合う服が好きだった”だけなのだろうと思われる。正直、女の子の私よりずっとふわふわのピンクのワンピースが似合う子で、ちょっとだけ嫉妬していたのを覚えているのだ。
『やーい、あいちゃんおかまー!ばーかばーか!』
『てめえら、いい加減にしろよ!』
愛斗はいじめっ子たちに“愛ちゃん”と女の子みたいなあだ名をつけられて、追いかけまわされることが少なくなかった。そのたびに彼等をぶっ飛ばして愛斗を守るのが私の役目である。
それも仕方ないことではあったのだろう。愛斗は人を殴れるような少年ではなかったし、他のどんな子供達よりも体が小さくて、ついでに病弱だったのだから。
『ごめんね、ごめんねユリちゃん。僕、弱くてごめんね。いっつも助けてもらってごめんね……』
幼稚園生の時。そうやって泣く愛斗の頭をいつも撫でながら私は言ったのである。
『気にすんなよ。愛斗は、愛斗でいいんだ。自分らしくいればそれでいいんだって、戦隊ヒーローも言ってたし!』
彼は、自分が守らなければいけない。それは義務感であり、同時に使命感でもあった。可愛らしい愛斗の姿と臆病な性格にちょっとモヤることがあっても、彼を守れる自分のことは好きで、正直浸っていたように思うのである。
愛斗を守れるのは自分だけ。だから自分がいつもしっかりしていなければいけない。これは、自分にしかできないこと。そんな仕事を与えられている己が、どこか誇らしくもあったのだ。
いつからだろう。段々と、愛斗に対して愛しさよりも苛立ちが勝るようになったのは。
『そこの可愛いお嬢ちゃん、デート?今日レディースデーだけど寄ってかなーい?』
『え』
今でこそレディースで―というのは減ってきているが(LGBTQ配慮もあるのだろう)、少なくとも当時は近くのカフェなんかでそういうサービスをしていることも少なくなかった。近所には小学生でも入れるような安いカフェや駄菓子屋があり、私達もよく利用していたのである。
ある日、愛斗と一緒にカフェに入ると、アルバイトらしきおじさんが愛斗にそう声をかけてきた。私と愛斗がデートに見えた、というのはいい。フレンドリーな接客のお店だったので、親し気に店員さんが声をかけてくるのはいい。でも。
そのおじさんは、愛斗を女の子だと思い、私のことを男の子だと思ったのだ。愛斗は困惑していたし、私は想像以上にショックをうけていた。いくら小学生で、私の方が愛斗より大きかったといってもだ。
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