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小学校四年生くらいになると、女の子は第二次性徴で胸が膨らみ始める。実際、友達の中にはあっという間に胸が大きくなった子がたくさんいたのだ。
しかし、私はそうではなかった。悲しいかな、大学生になった今でもほぼまな板の状態である。当時は完全なAAカップ。柔道を習っていたせいで体格も肩幅が広く、身長も大きくなっていたし、女の子らしい肉がつかない自分に少し悩みを感じていたのだ。
無論、今思うとあれは私にも原因はある。着心地良いからとボーイッシュな服装ばかり好んでいたのだから。それに、髪の毛も今とは違ってベリーショートだった。そんな私と一緒にいるのが、セミロングの髪型が可愛らしい、美少女めいた顔立ちの愛斗だったなら余計男の子に見えても仕方ないことだっただだろう。
しかし、当時はそういうことを客観的に見ることができなかった。愛斗は“おじさん見る目ないね”“僕なんかよりユリちゃんのがずっと可愛いよ”と慰めてくれたが、全然聞こえなかったのである。
そもそも、愛斗が女の子に勘違いされるのも、私が男の子に間違われるのも、その日が初めてのことではなかった。
別に、必要以上に女の子らしくなりたいわけではない。乙女なキャラなんてガラでもない。それでも、積もり積もった感情は膨れ上がる一方。どうして私が欲しいものを、愛斗が全部持っていってしまうんだろうと、そんなことを思ってしまうのである。
だから。
四月一日。エイプリルフールであるのをいいことに、私は愛斗に酷いことを言った。
この日なら、悪口を言っても嘘ということにできる。誤魔化しがきく。そう思ったから。
『愛斗なんかきらい!女の子っぽい姿もムカつく、うざい!だいっきらい!私より可愛いとは言われて調子乗んな!!』
公園で遊んだその日、わざとそんな言い方をした。正直、当時の私にとっては本心に近い言葉だったのである。それでも――すぐに“嘘だよ”と誤魔化すつもりだった。そのつもりで言ったはずだった。
ほんのちょっと。ほんのちょっと魔が差して、“嘘だよ”というのが遅れてしまっただけで。それで。
『ご、ごめん。ごめんね、ユリちゃん。ごめんね……』
『え!?あ……あ、いや……!』
私が次の言葉を言うよりも前に、愛斗は泣きそうな顔で謝ってきて、そのまま家に逃げ帰ってしまったのだった。やらかした、と気づいた。本当はすぐに追いかけていって、“あれはエイプリルフールのジョークだよ”と言わなければいけないと知っていた。
それなのに。余裕がなかった私は、彼を追いかけることを放棄したのである。気まずかったのもあるし、本当にイライラしていたのもある。謝るのは新学期になってからでもいい。それまでの間、あいつも悪いことをしたと反省すればいいのだ、と意地の悪いことを考えたのだ。
それが間違っていた。
先延ばしにして、愛斗を避けている間に――彼は家族ごと、地方に引っ越してしまったのだから。
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