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――私が酷いことを言ったってこと。……あいつ、家族に言わなかったんだろうな。
ゴールデンレトリーバーの年賀状を見ながら、私は思う。
――あんなこと言ったって知ってたら……家族の年賀用なんか、送られてくるわけないし。むしろ、私のこと恨んでてもしょうがないし。
小学生だった。幼かった。けれどそんな言葉で、何もかも許されるわけでhなあいということくらいわかっている。彼を守る立場に誇りを感じていたはずなのに、むしろ彼の存在に助けられたことが何度だってあったはずなのに。ほんの一時の感情で、本人が何も悪くないと知りながら全てをぶち壊してしまった。
遠い遠い、エイプリルフール。人を傷つけるような嘘ならば、本来言ってはいけない日。ましてやそれが、嘘に見せかけた真実であるなら尚更に。
――愛斗がまた、この町に来る。……会うかもしれないんだ、あいつと。
うちの両親は、私がやらかしたことを知らない。そして私もずるずると一人で罪悪感を抱えたまま大学生になってしまった。
近くに住むのならば、彼は挨拶をするために家を訪れるかもしれない。小学生の時に私が言ったことなんかとっくに忘れているかもしれない。今更気にしてないよ、と言うかもしれない。それでも。
本当はわかっていることだった。このままでは、仮に愛斗が私を許しても、私が私を許せないだろうことは。
――私の声なんか、聴きたくないかもしれない。でも。
「よし」
これは自分のエゴ。
それを承知で、私はスマートフォンを手に取った。そして意を決して、年賀状に書かれた電話番号を入力し、発信したのである。
メールアドレスもLINEのIDもわからない。話せる手段は、電話しかない。まるで会社の面接でもするかのようだった。緊張で、スマホを握る手に妙な汗をかいている。相手の番号は家電。本人が出ないかもしれない。家族が出たら、どうやって電話を代わってもらおうか。
――よく考えたらもう引っ越し終わってて、家にいないかもしれないんじゃ。あ、やば、気づいてなかった。
そう思った次の瞬間、コール音がやんだ。
『もしもし、倉敷ですが』
若い男性の声がした。愛斗には兄が二人いる。彼等のどっちかかな、と思いつつ私は口を開いた。
「あ、あの。わ、私……も、森田友理奈って言います。その、えっと……昔、倉敷愛斗くんと同じ小学校で、え、えっと、今でも、家族の年賀状貰ってる……。そ、その、愛斗くん、いますか?」
やばい、この説明でわかるだろうか。というか自分説明が下手すぎ。冷や汗をだらだら流しながら青ざめた、その時だった。
『……ユリちゃん?』
男性の声に、困惑の色が乗った。まさか。
『え、ユリちゃん?……ユリちゃんなの?』
「え、え?ひょっとして……あなたが、愛斗くん?」
『うん』
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