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明日音の不健康さ
「まだ私が若いことを証明してあげましょう」
「どうやって?」
カトラリーが擦れる音や軽やかに跳ねる音楽、お客さんの話し声で充満する空間に紛れて、明日音がコーヒーを啜った後に言い出した。
「例えば、私は1週間前までの食べたものを覚えています」
「ほー、じゃあ言ってみ?」
両手でカップを口もとからテーブルに置いてから右側にだけ吊り上がった口が裂けるように開いた。
「17日の朝は食べてなくて、昼はカップ麺、夜は焼き鳥」
「カップ麺の味と、焼き鳥の品を答えよ」
「カップ麺はねぎ塩で焼き鳥はネギま」
「ほう、じゃあ次」
「18日は朝は食べてなくて、昼はカップ麺、夜は焼き鳥」
「ほう」
「19日は朝は食べてなくて、昼はカップ麺、夜は焼き鳥」
「……へぇ」
「20日は朝は食べてなくて、昼はカップ麺、夜は焼き鳥」
「………………ん?」
「21日は朝は食べてなくて、昼は、」
「待て待て待て」
「どうしたの? 郁美」
思わず立ち上がってしまい、周囲の視線が痛い。フォークでお肉を指すようにチクチクした感覚が全身を巡っていた。
「どうしたの? じゃない、え、なに、同じ、てか、ちょー不健康じゃん」
「再検査待ったなし」
「だろうね」
仕事にもようやく慣れてきて、少し余裕が出てきたので、小学校から大学までずっと一緒だった大親友の明日音と休日にカフェに来ていた。おしゃれなカフェではなく、チェーン店だがちょっとお高めで雰囲気の良い、私のお気に入りのお店だ。
久しぶりに会い、27歳か、早いねと時の流れを懐かしみ、仕事はどう? 順調? と近況報告を市、彼氏できた? 全然だよと互いに確かめ合って、でもまだ27歳だよ、でも高校のあの子この前結婚したってSNSに上げてたよ、えー、でもまだ若いし、ね? なんて盛り上がっていた。
「え、なんで? やっぱり仕事? 忙しいの?」
「うんにゃ、全然」
私の不健康に対する疑問の推測をあっけらかんとした調子で否定してくる。
「じゃあなんで?」
「え、好きだから」
「好きだから?」
「うん、カップ麺と焼き鳥が」
そうだった、明日音は好きなものを永遠と食べられる偏食者だった。
「どう? まだ若いでしょ?」
「どこが?」
「一週間前の食事も覚えていることが」
「いやそれ記憶じゃなくてもはや習慣じゃん」
「んー、じゃあ食生活?」
「いやそれも若いっていうか……大丈夫なの?」
「んー多分? 常時体調不良でニ日前までちょうど入院してたけど、まぁ大丈夫でしょ」
「はぁ?」
「まだ若いし」
確かに言われてみれば、肌は荒れているし、クマもできていて、確かに言われてみれば高校生の時よりも痩せているような気がする。
少し会わない間に、明日音が不健康になっていた。
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