私の健康さ

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

私の健康さ

「あ、そうだ。これあげる」  私は鞄の中からいくつかの袋を取り出す。今の明日音に必要な物全部あるかなと中身を見ながら確かめる。 「これビタミンCのやつと、ブルーベリーエキスは必要ないか。コエンザイムQ10、肝臓エキス、乳酸菌、ヘム鉄、亜鉛、ブルガリアンローズ、カルシウム、アミノ酸、DHA、ウコン濃縮、マルチミネラル、あ、これ青汁のもと、プロテインに、眠りのサポート……」  テーブルの上にどんどん置いていくと、上の物が滑り落ちてしまい、それを慌てて拾う。 「袋あった。これに入れて持って帰って。あ、大丈夫、私の家にあと2、3袋ずつぐらい全部あるから」 「もしかして私、マルチ商法に引っかかった?」 「失礼な。これはタダだよ。もっと欲しいなら流石に自分で買ってもらうけど」  あぁ、と頭を抱える明日音。頭を抱えたいのはこっちの方だ。なんでこんな不健康な生活で平気なのだろうか。 「明日音さ、もうちょっと健康に気を付けないと。いくらまだ27歳っていってもさ」 「郁美こそ健康を意識しすぎて逆に不健康になっているような気がするんだけど?」 「そんなわけないじゃん」 「その根拠は?」 「ちゃんと信頼のおける情報源からだよ」  そう言いながら、携帯の電源を入れる。ブラウザに開きっぱなしの動画サイトから、お気に入りを探す。そして「これ」と目の前に掲げた。 「なにこれ?」 「どこかの有名な学者さんの研究に基づいてるって有名人が動画で話しているのの切り抜き」  本題までの雑談が長すぎて時間が無駄になるため、切り抜きが一番効率的なのだ。結論から話せとよく会社でも言われていて、その癖をつけるには苦労した。そのため、相手も結論から話していない場合は、ちょっとだけイライラするようになってしまったが、それは私が成長した証だろう。 「もしかして会わなかった間に大きな病気にかかった?」 「いや、全然」 「じゃあなんでそんな健康聖人に?」 「前にね、健康食品の訪問販売が来てさ」  一人暮らしを初めてすぐだった。インターフォンが鳴って恐る恐るドアの除き穴から見たら、水色の帽子をかぶっていて、配達かなと出てみたら違った。 「「わたしってそんな不健康そうに見えますか?」ってきいたら「見えます」って答えやがったの。ふざけてんのかー? ってその時は追い返したけど、あれは勿体ないことしたなって……あぁ、ごめん」  話していて結論からじゃなかったと気づく。そして「うーん」と少し頭を整理させてから、「やりたいこといっぱいあるからさ」と落ち着く。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!