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「え――っと、ここ、どこ?」 皆森杏子(みなもりきょうこ)は周囲を見回す。 ヨーロッパの古いお城のような立派な建物が正面にそびえ、杏子の周囲には立派な木々とガス灯が一定間隔で並んだ森が見える。 杏子は、ちょうど森の中を通る小道を遮るように座っていた。 その時、後ろから「どいたどいた!」と大きな野太い声が聞こえてくる。慌てて振り返ると、小道を馬車が駆けて来るところだった。 「わっ」 このままでは轢かれてしまうと、杏子は慌てて小道の脇に逃げ出す。立ち上がる余裕はなく、しりもちをついたまま後ずさるような形だったため、服が土埃で汚れてしまった。 あーぁとため息をつきながら立ち上がり、服についた汚れを手で払う。通っている公立高校の冬用の制服――それは、目に入る景色からは明らかに浮いた格好だった。 (確か、私はバイトの帰りだったような…) 杏子は記憶を辿る。だが、放課後に週3日でしているアルバイト先の居酒屋を出たことまでしか思い出せない。 ただ、少なくとも目の前の景色が、杏子の知っている場所ではないことだけははっきりとわかった。 ぐぅぅ…。 杏子の腹から空腹を告げる音が鳴り出す。 (そういえば今日は(まかな)い貰えなかったんだっけ) 普段はアルバイトの途中で休憩があって賄いを食べることができた。 どうして食べなかったのかを思い出せず、杏子は腹を擦りながら長いため息をつく。 ふと周りを見回すと、小道から外れた森の中に、リンゴが()った木を見つけた。果樹園でもないのにリンゴが生っているのを見るに、やはり知っている場所ではないのだろうと思いながら、杏子は木に近づいた。 木は近くで見ると高さがあり、背伸びをして手を伸ばしてもリンゴには指先が届かない。足元に落ちている枝を拾って距離を稼いでも、木を揺すってみても、リンゴを手に入れることはできなかった。 (どうしよう) そうしている間にも、空腹は酷くなる一方だ。杏子はふと、幼い頃はよく木登りをしていたことを思い出す。 ローファーと黒のハイソックスを脱ぎ、木に抱き着いたところで、後ろに人の気配がした。 「何してるの?」 アイドルのような可愛らしい声に驚き、杏子は慌てて木から離れる。恐る恐る後ろを確認すると、人ひとり分の距離に露出の高い恰好の小柄な女子が立っていた。 「いえ、何も!」 まるでファンタジー系RPGの女戦士のような恰好だが、武器のようなものは見えない。コスプレだろうかと思っていると、ジロジロ見過ぎたのか彼女が訝し気な表情を浮かべる。 すみませんと謝ろうとしたところで、 「あぁ――あなた転生者ね」 彼女がポツリと言った。 転生という言葉に杏子は思わず「え?」と聞き返す。それは、最近クラスで流行っている漫画のジャンルと同じだったからだ。
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