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お城の内装は、外観から想像していたよりも煌びやかで豪華だった。 多くの人が行き交っており、お城というよりひとつの都市のように思えた。 執務室のような場所はなく、あるのは手続きのできる窓口のようなカウンターが幾つかと、駅ナカのコンビニのようなお店が数店舗。いずれも何か道具を売っているようだが、見慣れないものばかりが陳列されている。 それを見て、どうやら知っている世界ではないようだと杏子はようやく異世界であることを受け入れるのだった。 「元の世界にはこの窓口で手続きしたら戻れるの」 ヴェリココが指さしたのは、誰も並んでいないカウンターだ。普段誰も手続きに来ないのか、カウンターの内側にも人の気配がない。 「人を探してくるから、ちょっと待ってて」 ヴェリココはそう言い残し、杏子を置いてどこかへ行ってしまった。手持無沙汰になった杏子は、空腹の余り立っているのがしんどくなり、座れそうな場所を探してフラフラと壁伝いに歩き回った。 数十秒ほど歩くと、開けた広間に出る。太い柱の根本に腰を掛けたところで、広間に置かれた長テーブルが目に留まった。 (うわ、美味しそう) 長テーブルの上には、ローストチキンやパイ、果物の盛り合わせといったファンタジー映画でしか見ないような豪華な料理が並んでいる。 ぐぎゅるるる… 杏子の腹がひと際大きな音で空腹を告げる。 (食べたい。でも、元の世界に戻れなくなっちゃう) 杏子は料理から目を離そうとしたところでふと疑問を抱いた。 (そんなに我慢してまで、戻る価値なんてあったっけ) 杏子の両親は、杏子が幼い頃に離婚した。杏子と5歳上の兄は、母親に引き取られた。 離婚の理由は、母親がギャンブルにハマってしまったことだった。彼女は働きもせず毎日パチンコに通っている。 父親は杏子たちを足枷のように思っていたのか、あまり多くない養育費を払うだけで顔も見に来ない。働かない母親に親権を渡し、それっきりだ。 母親は養育費で通っていたパチンコ店で知り合った男と交際を始めた。男は暴力を振るうような気性の荒い人で、度々杏子たちにも手を上げたが、母親が止めようとしたことはなかった。 ――俺が社会人になったら、一緒に家を出よう。 そう言ってくれた兄は、結局社会に出て3ヶ月で会社を辞め、引きこもりになってしまった。 自分の存在がプレッシャーだっただろうかと思った杏子が理由を聞くと、ゲームに時間を割けない社会人が嫌になったのだと彼は言った。
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