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第一話 秘密の恋人
「これは俺とおまえの、ふたりだけの秘密だぞ」
そう言ったじいさんが亡くなった。
昨日のことだ。
パソコンやネットにも強くて、動画配信なんかも積極的にしているようなじじいだった。
90歳とはとても思えないくらい、この時代に精通していて、同じ年の友達と話しているような気安さがあって、俺はじじいっぽさのない、このじいさんが大好きだった。
いじめのせいで俺が不登校になって、親戚や家族に疎んじられても、じいさんだけは俺の味方でいてくれた。
引きこもりの俺にネットの楽しさを教えてくれたのもじいさんだった。
俺にとってかけがえのない存在だったじいさんには人に言えない、それこそ妻であるばあさんにも言えない秘密があった。
俺だけが知っている彼の秘密。
そしてそんなじいさんのたっての頼みを聞き届けるため、俺はじいさんの通夜を抜け出して、ある場所へと向かっている。
がたたん、がたたんっと規則正しいリズムで走る電車に揺られたのはいつぶりだろう。引きこもってから一年は、こうしてひとりで遠出をすることなんてなかったから、すごく緊張している。
学生服のワイシャツのボタンをはずし、ネクタイを緩める。
この制服に袖を通すのも一年ぶりだった。
ずいぶん長いこと着ていないから、どうにも落ち着かない。
手のひらは汗でじっとり濡れているし、さっきから何度もお茶で口の渇きを癒やしているはずなのに、ちっともよくならない。
――もうすぐ彼女に会えるんだ。
そう思ったら、どきどきと心臓が早鐘を打った。
なにか悪いことをしているみたいだった。
無理もない。
だって俺はじいさんの『秘密の恋人』に会いに行くのだからーー
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