彼岸からのメッセージ

3/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
◇◆◇◆  待ち合わせ時間を早め、ゼミの同期全員が公園の最寄り駅に集まった。いつまで経っても連絡がつかない悠貴の安否を確かめたい一心だった。  事故現場と思しき場所には、前方が大破した乗用車が残っていた。乗用車は歩道に乗り上げ、電柱にぶつかったようで、傍の電柱が折れている。  友美たちが公園に向かう間に、この事故での死傷者数が報道され、死亡者1名であることが判明した。 「20代男性だって」 「悠貴じゃないよね…?」 「でも、友美には連絡あったんだよね?」  同期たちの不安そうな質問に、友美は頷く。だが、メッセージが1度来たきり音信不通になっているため、友美も不安は隠しきれなかった。  グループLIMEに悠貴から送られてきた画像を元に、彼が早くから場所取りしていた場所を探し出したが、そこに彼の姿はなかった。  彼が持って来た荷物やブルーシートはそこに残っていたが、貴重品の財布とスマホはその場になかった。  嫌な予感が現実味を帯び始める。現場に来るという判断は、不安を消し去るどころか、より大きな不安にしてしまっただけだった。  お通夜のような暗い雰囲気が同期の間に漂う。誰も何も口を利かないまま、公園を後にする。  その日の夕方、グループLIMEに悠貴のアカウントからメッセージが届いた。 〈悠貴の母です。今日、××公園での事故で息子が亡くなりました。生前、息子と仲良くしてくださっていたみたいで、ありがとうございます〉  事故の犠牲者は悠貴だった。その事実が受け入れられず、友美はトーク画面を開いたままただ茫然とするのだった。  葬儀は身内だけでという悠貴の母親の意向で、最期のお別れの場は友美たちには与えられなかった。 ハッキリとは言わなかったが、悠貴の遺体の状態があまり良くないということを仄めかされたため、それが理由なのだろうと友美は察した。それでも、お別れの場がないことを悲しく思う気持ちは変わらなかった。 簡単には割り切れなかった。 それと同時に、事故の犠牲者が悠貴だったことで友美は後悔の念に駆られた。 場所取りの担当を悠貴に頼まなければ、彼が犠牲者になることはなかったかもしれない。 お花見をどこでするか決める際、××公園を候補に出したのも友美だった。 それが直接事故に繋がった訳ではない。それでも、後悔は尽きなかった。 「どうして寝坊しなかったかなあ…」 彼が遅刻癖を見直してくれたらいいと思っていた。たまには待つ立場になってほしいと思っていた。 そうすることで、彼が遅刻に懲りてくれればいいと、軽い気持ちで考えた。 その結果、彼と永遠に会えなくなるなんて思いもしなかったのだ。 ふと友美は思い出して、悠貴とのトーク画面を見直す。彼から送られてきたメッセージは、事故の発生時間の直後だった。 彼が事故に遭ったのとメッセージを送信したのが同時なら、そうはならないはずだ。 直感的に、これは事故に遭った後の彼が送ってきたものだと友美は思った。 遅刻を反省して早起きしただけなのか、お花見を楽しみにしていたからこそ早起きしたのか、悠貴がどうして寝坊しなかったのか友美にはわからない。 だが、彼が最期に送ってきたメッセージからは、お花見を楽しみにしていた様子が垣間見えるようだった。 友美は事故の直接の加害者ではない。だが、責任は感じていた。 だからこそ行き場のない罪悪感で胸が苦しくなり、二度と既読をつけることのない悠貴に、「ごめんなさい」と呟くように謝り続けるのだった。 END
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!