彼岸からのメッセージ

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〈場所取りは悠貴に頼めない?〉 〈いつも遅刻してばっかりだし〉  LIMEのグループに送信すると、すぐに既読がつく。既読数はすぐ10になり、ゼミの同期全員が見た後も返信は来ない。  これは大学のゼミの同期とのLIMEグループで、今はお花見をしないかという話をしているところだった。  友美(ともみ)はグループLIMEに送信したメッセージを後悔し始めた。  同期の悠貴(ゆうき)には遅刻癖があり、ゼミでの行事はもちろん、大学の行事でも迷惑を掛けられてばかりだと友美は感じていた。  だが、皆が同じように迷惑に感じているかはわからない。既読がついた今となっては遅いが、送信取り消しをしようとメッセージを長押ししたところで、返信が表示された。 〈確かに悠貴の遅刻癖は困るけどさ、場所取りにも遅刻されたらもっと困らない?笑〉  そう送ってきたのは、副ゼミ長だ。言われてみれば彼の言う通りで、他の役割を悠貴には任せるべきかもしれないと友美は思い直す。  そうだねとメッセージを送ろうとしたところで、別のメンバーから返信が来た。 〈目覚ましいくつもセットして起きてもらえばよくない?笑〉 〈待ち合わせ場所に先に悠貴がいる光景、見てみたいかも〉 〈わかった。場所取りは俺に任せてよ〉  悠貴からも場所取り担当を引き受けるメッセージが送られてくる。本人が同意したことで話題は場所取り担当以外の役割を決める話に変わって行った。  買い出し担当やスケジュール管理担当の他、当日に悠貴に鬼電をして起こす担当といった役割を決めたところで、グループのやり取りは止まる。  その後はお花見当日まで、買うものリストを作成したり、どこでお花見をするかといった話が度々話し合われた。 ◇◆◇◆  そして迎えたお花見当日――。  普段はアラームと同時に起きる友美だったが、珍しくアラームより先に目が覚めた。 (お花見が楽しみで寝れないみたいなタイプじゃないんだけどな)  二度寝する気にもならないほど眠気がなく、目がぱっちり冴えていた。友美は〈5:30〉と表示されたスマホの待ち受け画面を見ながら、ゆっくりと起き上がる。 〈今日は寝坊しなかった!ちゃんと起きてるからな〉  スマホに通知が届く。それは悠貴からのLIMEだった。グループではなく、わざわざ個人LIMEに送られてきたのは、友美が彼の遅刻癖をグループLIMEで指摘したからだろう。 〈珍しい!いい場所取っといてくれるの期待してるからね〉  友美が送信すると、すぐに既読がつく。〈任せとけ〉という文字が添えられたスタンプが送られてきて、友美は思わず笑みをこぼした。  待ち合わせの10時に間に合うよう身支度を整えながら、友美は何気なくテレビをつける。テレビの左上には〈7:40〉と表示されている。  朝の占いコーナーを見ながら、綺麗なキツネ色に焼けたトーストをかじっていると、スマホに通知が届く。 〈悠貴が画像を送信しました。〉 〈いい場所取れたぞ。待ってるからな!〉  画像もメッセージも、グループLIMEに悠貴が送信したものだった。トーク画面を開くと、悠貴が桜の木の根元にブルーシートを敷いて自撮りした写真が送られてきている。  画像は2枚あり、自撮りともう一枚はお花見用に彼が確保した場所をスマホの外側のカメラで撮影した写真だった。 〈悠貴ありがとー〉 〈悠貴が一番乗りって変な感じ笑 場所取りあざす〉  数人のメンバーから悠貴へのお礼メッセージが送られてくる。こういう時にドヤ顔でスタンプを送ってきそうな彼は、珍しく何も反応しなかった。 (早起きしたみたいだし、シートの上で寝ちゃったのかな)  友美はそんなことを考えながら、トーク一覧に戻る。  未読のメッセージがないことを確認し、LIMEを閉じようとした時だった。トーク一覧の一番上に悠貴とのトーク履歴が表示される。  右側に赤い未読表示がついていて、最後のやり取りがスタンプから〈聞きたいことがあるんだけど…〉に更新されていた。
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