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某製菓会社の公式SNSで
『カラメル好きのみなさまに朗報!カラメルとプリンの比率が逆になった!?』
と、いう画像付きの投稿記事を見た。
おぉ、これは!
プリン好きの優羽に知らせねば!
そう思ったのも束の間。
よくよくその記事を見てみると、エイプリルフールのハッシュタグ。
あぁ、今日はエイプリルフールだっけ…
これ見たら、優羽はどんな反応するかな…
優羽の反応を想像すると、つい口元が緩んでしまう。
僕はニタニタしながら、逆プリン画像を送ってみた。
直ぐに既読がついて「何これ、どこで買えるの?」と返信がきた。
だよな、食いつくよな…
一緒にこの画像を見ることが出来なかったことを残念に思っていると「壮ちゃん、買って来て〜」と、続けてメッセージが届く。
時計を見ると23時42分。
嘘だろ…
風呂も入って、スウェットで、伸びた前髪をヘアゴムでくくって、直ぐにでも寝れますモード。親はもうとっくに寝ている…
部屋の窓を開けて、道路を挟んで斜め向かいの優羽の部屋を眺めた。優羽の家は平屋なので、僕の二階の部屋からは見下ろす格好だ。
僕らは幼なじみ。恋多き優羽に、僕は長いこと片思い中だ。
春とはいえ、夜の風は冷んやりしていて肌寒い。
ピンク色のカーテンをめくって、優羽が顔を見せた。
「嘘だよ、オヤスミ」のメッセージが届く。
優羽は手を振っているが、表情は暗くてよく見えない。
気づけば僕は、財布を片手に近くのコンビニへ走っていた。そして、金髪で根元が黒いプリン頭のやる気のない店員に、プリンを二つ差し出して、支払いを済ませた。
「買って来たよ」って騙したら、どんな顔するかな?と、心躍らせながら優羽の部屋の窓をコンコンと鳴らした。
すっぴんの優羽が「マジ?」と驚いた顔で僕を出迎えた。
僕は「ほら」と袋ごとプリンを渡す。
「え?売ってたの?」
そう言って目を輝かせる優羽が本当に可愛くて、袋の中を見てガッカリする姿を想像すると胸が痛んだ。
「あんなの売ってないよ、エイプリルフールだよ」
と、怖気付いて先にネタばらし。
「なーんだそうなんだ……」
優羽は俯いて、袋の中をのぞきこんだ。それから「え?え?でも…これ…」と、驚いた顔をする。
「は?」
え?どういうこと?
普通のプリンを買った…はず…だよな…
急いで買ったからちゃんと見なかった?
プリン頭の店員に気を取られて…
もしかして本当に売ってた?逆プリン!?
僕は優羽から袋を奪い返して、慌てて中を覗いた。
そこには普通のプリンが二つ入っていた。
顔を上げると、優羽がペロっと舌を出して悪戯に笑った。
や、やられた…
僕が悔しそうにしていると、優羽はクスクス笑った。それから「普通が一番、特別は最後のお楽しみがいいもん」と言った。
時計は0時を回っていた。
「プリンありがと!寒いね、これかぶって帰って…」
優羽はそう言って、モコモコのブランケットを僕の肩にかけてくれようと窓から身を乗り出した。
見上げる僕と顔が近づく。
頬と頬が掠めるくらいの距離。
ふわっと、柔らかくて甘い香りがした。
僕は優羽の頬にそっと唇をあてた。そしてそのまま「騙した仕返し」と、小声で囁いて優羽に背を向けて、数十歩先の自宅へ向かう。
優羽は今、どんな顔をしているだろう?
エイプリルフールはもう終わり。
嘘と本当の狭間で、優羽が少しでも僕を異性として意識してくれていたらいいのだけれど…
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