2.

7/8
前へ
/20ページ
次へ
 その日も閉店まで働いた。帰ってくると彼女は膝を抱えて寝ていた。ペットボトルも牛乳パックも空だった。傍らに立ち見下ろしていると彼女が目を覚ました。大きな黒い目が良秀を見た。良秀の心臓が波打った。 「起こしてごめん」  彼女の大きな口が薄く開いた。わずかに見える口の中は毒々しいほど赤く、真っ白な顔に長い紅を引いたようだった。 「おなかがすいた」  その赤い口から綺麗な声が聞こえた。 「じゃあご飯でも。何食べる?」  とは言ってもここにはカップラーメンくらいしかない。食べるだろうか?  すると彼女は立ち上がった。その姿に良秀は驚いた。昨夜より随分大きくなっている。小柄な高校生といったところだ。  彼女は良秀の前を横切り、玄関に向かった。 「ちょっと!」  思わず彼女の腕を取った。 「外に出たら駄目だよ」  彼女は振り向いて首を斜めにした。「おなかがすいた」 「それは分かったけど」  良秀は彼女の腕を握ったまま考えた。飲食店に連れて行くわけにはいかない。コンビニで何か買ってこようか。何がいいだろう。唐揚げ弁当とか? いや、女性だからパスタがいいかな。  あれこれ思い悩んでると、彼女の腕を握っていた手が突然強烈な力で引っ張られた。あまりの力の強さに良秀はバランスを崩しながら手を離した。 「うそっ」  彼女は再び歩き出しただけだ。それなのに今の力はどういうことだ。まるでウインチで巻き上げられたような感じがした。 「お願い待って。一緒に行くからちょっと止まって」彼女の背中に向かって言った。  彼女はピタリと止まった。良秀は部屋に戻ると、衣装ケースの中からスウェットの上下と古いウインドブレーカーを出した。 「これを着て」  そう言ったが彼女は動かなかった。良秀はビクビクしながら彼女に近づき服を着せてやった。裾と袖を何重にも折り返し、顔にはフードを被せた。 「これでいいか」  良秀は彼女を連れて外に出た。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加