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その夜、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると由樹奈が立っていた。
良秀は眉を寄せた。「なんの用?」
「おいおい、ご挨拶だなあ!」
由樹奈は大きな声を出した。少し酔っているようだ。
「ごめん」
「辰郎なんだけどさ、やっぱりおかしいんだよね」
「そう?」
「あんた、あたしに言うことあるでしょ?」
「そんなもの無いよ」
「あれから考えたんだけど」由樹奈は顎に手を当てた。「やっぱりあんたたち、本当は大金を手に入れたんでしょ?」
そう言って責めるような目で良秀を見た。
「そんなわけないじゃん。この前も言った通り、あの家は何もなかったんだから」
「ほかに考えられないわけ。あたしに分け前を渡したくないから避けてるんでしょ!」
「違うよ。違うから大きな声出さないで」
由樹奈が良秀の首に腕を回した。
「今から飲みいこう!」
「ええ、今から?」
「そうだよ」
「今日はちょっ――」
「おーし、決まり。ああん? 嫌なのかよ!」
「分かった、行く、行くから。もう大きな声出さないで」
良秀は由樹奈を玄関に残して部屋に戻ると、すぐに着替えて戻ってきた。
「よし、レッツらゴー」由樹奈はそう声を張り上げたあと「わっ!」と叫んだ。
見ると由樹奈が良秀の背後を指差しながら目を剥いている。
「そ、そ、そいつ何だよ」
振り返るとウィンドブレーカーを被った彼女が立っていた。昨夜の血は綺麗に洗ってある。
「あ」良秀は言った。「彼女はその、従姉妹。従姉妹というのは、母さんの妹の子」
すぐにバレそうな嘘だが、そんなものが咄嗟に出てきたことに自分でも驚いた。
「ああ、そうなの」
「うん、しばらく預かることになって」
「そうなんだ……見えちゃいけないものが見えたのかと思ったわよ」
それから彼女をおいて二人は部屋を出た。
「あれ、本当に従姉妹か?」夜道を並んで歩きながら由樹奈が言った。
「そうだけど」
「本当かあ? 今のご時世、あれはヤバいぞ」
「ヤバい?」良秀は何か思いついたように由樹奈を見た。「違うよ!」
「ああそう」由樹奈は笑った。「そういうことにしておくけど、あたしはしっかり見たからねえ」
「変なこと言わないでよ」
「まあ、あんたみたいなヘタレにそんな真似はできないか」
良秀はつまらなそうに横を向いた。
悪口には慣れている。
「そうそう」由樹奈が思い出したように言った。「この間の女の子を紹介するって話、あれ向こうに話しといたから」
「本当に話したの」
「当たり前じゃん。うまくやれよ!」
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