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女は下から覗き込むように良秀の顔を見た。良秀は不覚にも目をそむけた。
「由樹奈はかなり興奮してたよ。あいつはバカだからそういうの隠せないんだよ。これは何かあるなと感じた。そしたら連絡が取れなくなった」
「僕には関係な――」
女が良秀の頬に手を添え、正面を向かせた。
「話しの流れからいって、その道具とやらはここにあるんだろ?」
「いや……」
女は指先で両側の頬を挟んだ。
「由樹奈とあいつの彼氏はどうも危ないことをやってるらしい。その由樹奈がわたしに何かを見せようとして行方不明になった。最後にお前の連絡先を残してね」
「行方不明なんて、そんな大げさな」
女の指に力が入り、良秀の口が縦に歪んだ
「由樹奈のことなんかどうでもいい。あいつが手に入れた『道具』をわたしに見せて」
「僕は、なんにも」
「お前が由樹奈を殺したんだろ。それで道具を独り占めした」
「違う、違いますよ」
「仲間をここに呼んでもいい? わたしは優しいけど、あいつらはそうじゃないよ」
「だから本当に僕は――」
女の後ろでコトリと音がした。女は目を見開いて振り向いた。
クローゼットのドアが少し開いている。
女の視線がその隙間に注がれた。
「だ、誰かいるのか?」
次の瞬間ドアが勢いよく跳ね飛ばされ、赤い口を開けた彼女が飛び出してきた。
悲鳴をあげる間もなく女は喉を噛み切られた。赤い噴水が天井まで届いた。良秀はその光景を見ながら部屋の掃除のことを考えた。
床に倒された女は両足を激しく痙攣させた。だがそれもわずかな間だけだった。
スカートが捲れ上がり、ふともも、それに下着が露出している。
それを見ながら良秀はふと考えた。
辰郎がSNSのことを言っていた。動画を撮るだの、再生回数を稼ぐだのと。
血と女の素肌――誰もが見たくてたまらないものがいま目の前にある。
そうだ、これに金を落とす連中は世界中にごまんといる。旨そうなにおいのする人間もまた掃いて捨てるほどいる。これはとんでもない金が手に入るぞ。彼女の食欲は満たされ、おまけに世界の人も大喜び。一石二鳥どころじゃないな。
思わず口元がほころんだ。
「あっ」
良秀は声を上げた。
彼女の口が自分に向かって大きく開いた。
どうやら臭ってしまったようだ。
深夜、畳の部屋に座っていた女は不意に顔を上げた。そして音もなく立ち上がると玄関に向かい、ドアを開けた。
ドアの向こうにはウィンドブレーカーを着た彼女が立っていた。
女は彼女の肩を優しく抱きしめた。
「ずいぶん遅かったのね」そう言って彼女の手を取った。「さあ、こっちにいらっしゃい」
部屋には彼女と同じ形をした生き物が数体座っていた。服を着ているのは彼女だけだ。
「よく帰ってきたわね。私の娘たち」
女は静かに腰を下ろした。彼女も他の者たちに混ざって座った。
「昨日お腹に種子を蓄えたから、明日からたくさん受精卵を産むの」
女は自分の大きな腰をさすった。
「お前たちがお腹にたくさん肉団子を持ってきてくれたから安心ね」
女は隣に座っている子供の腹に手を添えた。彼女と同じように大きく丸く膨らんでいる。
「新しい子たちはにはたくさん食べてもらわないとね」
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