5.

2/2
前へ
/20ページ
次へ
 女は下から覗き込むように良秀の顔を見た。良秀は不覚にも目をそむけた。 「由樹奈はかなり興奮してたよ。あいつはバカだからそういうの隠せないんだよ。これは何かあるなと感じた。そしたら連絡が取れなくなった」 「僕には関係な――」  女が良秀の頬に手を添え、正面を向かせた。 「話しの流れからいって、その道具とやらはここにあるんだろ?」 「いや……」  女は指先で両側の頬を挟んだ。 「由樹奈とあいつの彼氏はどうも危ないことをやってるらしい。その由樹奈がわたしに何かを見せようとして行方不明になった。最後にお前の連絡先を残してね」 「行方不明なんて、そんな大げさな」  女の指に力が入り、良秀の口が縦に歪んだ 「由樹奈のことなんかどうでもいい。あいつが手に入れた『道具』をわたしに見せて」 「僕は、なんにも」 「お前が由樹奈を殺したんだろ。それで道具を独り占めした」 「違う、違いますよ」 「仲間をここに呼んでもいい? わたしは優しいけど、あいつらはそうじゃないよ」 「だから本当に僕は――」  女の後ろでコトリと音がした。女は目を見開いて振り向いた。  クローゼットのドアが少し開いている。  女の視線がその隙間に注がれた。 「だ、誰かいるのか?」  次の瞬間ドアが勢いよく跳ね飛ばされ、赤い口を開けた彼女が飛び出してきた。  悲鳴をあげる間もなく女は喉を噛み切られた。赤い噴水が天井まで届いた。良秀はその光景を見ながら部屋の掃除のことを考えた。  床に倒された女は両足を激しく痙攣させた。だがそれもわずかな間だけだった。  スカートが捲れ上がり、ふともも、それに下着が露出している。  それを見ながら良秀はふと考えた。  辰郎がSNSのことを言っていた。動画を撮るだの、再生回数を稼ぐだのと。  血と女の素肌――誰もが見たくてたまらないものがいま目の前にある。  そうだ、これに金を落とす連中は世界中にごまんといる。旨そうなにおいのする人間もまた掃いて捨てるほどいる。これはとんでもない金が手に入るぞ。彼女の食欲は満たされ、おまけに世界の人も大喜び。一石二鳥どころじゃないな。  思わず口元がほころんだ。 「あっ」  良秀は声を上げた。  彼女の口が自分に向かって大きく開いた。  どうやら臭ってしまったようだ。  深夜、畳の部屋に座っていた女は不意に顔を上げた。そして音もなく立ち上がると玄関に向かい、ドアを開けた。  ドアの向こうにはウィンドブレーカーを着た彼女が立っていた。  女は彼女の肩を優しく抱きしめた。 「ずいぶん遅かったのね」そう言って彼女の手を取った。「さあ、こっちにいらっしゃい」  部屋には彼女と同じ形をした生き物が数体座っていた。服を着ているのは彼女だけだ。 「よく帰ってきたわね。私の娘たち」  女は静かに腰を下ろした。彼女も他の者たちに混ざって座った。 「昨日お腹に種子を蓄えたから、明日からたくさん受精卵(たまご)を産むの」  女は自分の大きな腰をさすった。 「お前たちがお腹にたくさん肉団子(たべもの)を持ってきてくれたから安心ね」  女は隣に座っている子供の腹に手を添えた。彼女と同じように大きく丸く膨らんでいる。 「新しい子たちはにはたくさん食べてもらわないとね」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加