吸血公と極夜の愛し子

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 ラーヴァル公が先王アウグスト四世崩御の報を受けたのは、新王の戴冠から三月の後、冬の日のことだった。  葬礼にはラーヴァル公の名代として王城に留まっていた彼の片割れが参加するため登城は不要と記されており、そして全てが済んだらラーヴァルに戻るとも追記があった。 「やっとリュカ君が帰ってくるのかい。クローディアスのお守りから解放されると思ったら涙が出そうだ」 「本っ当~にそうですね。先王陛下がお亡くなりになったのだから嬉しいと言うわけにはいかないけど、クロード様の赤ちゃんみたいなご無聊が吹き飛ぶと思うと」 「……お守りなど頼んだ覚えは無い。さっさと本国に帰れば良いだろう」  いつしか定例の行事のようになった、ティアとエシュローとクロードによる深夜の茶会。  領主代行としての用は済んだはずのエシュローだが、「クローディアスが寂しいだろうから」とかでしぶとく逗留を続けていた。  銀の髪をした柔和な吸血鬼の青年は血の当番の娘達には絶大な人気で、当番の負担はクロードの分もあわせて倍に増えたというのに誰もが喜び勇んで館に乗り込んでくる有様だった。  ただしどの乙女も将来設計はティアと同じかそれ以上にしっかりしたもので、エシュローの誘いに応じてお嫁さんになってくれる相手というのは未だに見つかっていない。「クローディアスの守る子らはみな強かだなぁ」とエシュローは感心しきりだった。  ラーヴァルは領地としてはもっとも狭く、立場も強くは無い。だが、吸血公の加護のもと、領民達は懸命に、強かに生きていた。
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