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吸血公と久遠の蜜月
そうして日々は流れ――ついに、クロードの愛し子がラーヴァルへと戻ってくる日となった。
三日ほど前から、クロードは落ち着かない様子を隠さなくなった。ティアやエシュローに揶揄されてもなお、彼の機嫌はひたすら上向きだった。
戻ってきたら何を話そうか、何をしてやろうか、そして――いかにして愛でようか。溢れるほどの期待を抱き、悠久を生きる吸血鬼は長く長く感じられる夜を過ごした。
そして三日目の晩。澄み切った空から大きな月が見下ろす中で、ついにリュカがラーヴァルへと帰還を果たすこととなった。
従者であるはずのリュカを迎えるため、クロードは自ら館のおもてに出る。野次馬のようについてきたエシュローとティアの三人でポーチで今か今かと待っていると、
「お、ようやくだね」
エシュローの安堵するような声。程なくして滑り込むように、芦毛の二頭立ての馬車が館の敷地に滑り込んでくる。
そしてクロードの目の前で、黒く壮麗な御用馬車が停止する。
少しの沈黙の後、扉がゆっくりと開き、中から赤毛の少年が姿を現した。
長らくまみえていなかった、夜に生きる存在になってすら眩いいのちの輝きを抱くような愛し子。クロードは手を広げ、飛びついてくるであろう彼を抱き留める準備をしたところで――
「お手をどうぞ、殿下」
御者をしていた近衛将校が畏まってリュカに手を差し出していた。
「殿下はやめてくださいってば……」
精悍な顔立ちのその男は、まるで少年の騎士であるかのような振る舞いで、リュカの手を受け止めようとする。
「……」
瞬間、クロードは黒い霧と化し、いつぞやのようにリュカと近衛の間に割り込む。そのままざらざらと霧でリュカを包み、ポーチの下にまで引き込んでから実体に戻る。
近衛のカイルどころかリュカも状況が把握できずにぽかんと目を丸くする。
「あはは、クローディアスが嫉妬でねじ切れそうになっているよ。面白いね」
「黙れ」
横で見ていたエシュローが弟を指さしながら大笑いし始めるが、クロードはもはや顔を向けることもなく、リュカの手を引いて自ら扉を開けて館に入ろうとする。
そして去り際、冷ややかに告げる。
「そこのは王都のエリートだぞ。好きにもてなしておけ」
「ほほう……お兄さん、こんばんは、はじめまして、いい身体してるね。ご結婚は? 闇の眷属に興味は無い?」
「王都のシティーボーイ……ですって!?」
「いや、俺は殿下の護衛で……」
「まず馬を休ませましょう、それからゆーっくりお茶しましょう。ご案内しますね?」
「じゃあお兄さん、闇の国って興味ないかな?」
エシュローとティアのそんなかしましい声を置き去りにしながら、リュカはクロードに手を引かれて館の奥に連れて行かれたのだった。
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