吸血公と久遠の蜜月

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 話を聞く内に、クロードの麗しい顔立ちの雲行きがどんどん怪しくなっていく。 「…………飲んだのか。あれの血を」 「え、はい……だめでしたか……?  できるだけ、クロードさまと同じようにやってみたんですけど」  『自分と同じように』――全く邪気の無いその言葉でついにクロードは撃沈する。天を仰ぎ、嘆息した。 「ああ、満点だ。この上なく……」  丁重に招き入れ、緊張をほぐすように優しく語りかけ、できるだけ痛みが少ないようにとそっと牙で皮膚を穿ち、溢れる血を恭しく口にする。そして優しい手つきで手当を施し、茶を振る舞って労る。  ――実のところそれらは全て、吸血鬼が人間を籠絡するための伝統的な手管だった。吸血公の領地で生まれて吸血鬼に慣れ親しんだ領民の娘達ならともかく、堅物の近衛将校にそのような振る舞いをすれば結果は火を見るより明らかだった。 「あの……じつは、お兄様――アウグストさまと、アンリさまの血も貰っちゃったんです。お兄様は亡くなる前にいただきました。あとはせっかくだからアンリさまの血も貰った方がいいかなって……」 「………………」  クロードの腕の中で、おずおずととんでもないことを言い出すリュカ。クロードの顔は怒りやら嫉妬やら呆れやらで、ついに見たこともないような表情になっている。 「だ、だめでしたか……ごめんなさい」 「正直に言え、何人の血を飲んだ」 「ええと……十……二十人くらいです」 「二十?」 「二十……二十八人かな……」 「その全員を『丁重にもてなし』したのか」 「ええ……まぁ、はい」  クロードの反応で、リュカはそれが相当まずかったのだと悟り、今更ながら震え始める。  だが、クロードは正確には怒っているわけではなかった。それはどちらかというと戦慄に近いものだった。  リュカのことだから力尽くでどうこうしたということは無い。それぞれの相手に馬鹿正直に頼んだ上で、了承を得ているのだ。そしてそれが本来どれだけ難しいことなのかを、リュカは全く認識していない。  本来の吸血鬼とは闇に生き、昼の命とはあまり交わることのない存在である。クロードが例外的に人間と共に在るし、人間の世界から闇の本国にわざわざ移住し、吸血鬼に喜んで糧として身を差し出す酔狂な人間もいないわけではない。だが、大多数の人間にとっては得体の知れない化け物という程度の認識のはずだった。 「お前は……もしかしたら、エシュロー以上の逸材なのかもしれん」  言いながら、クロードは人誑しが過ぎる愛し子をひょいと抱き上げ、自身の膝に乗せて腕の中に捕まえる。
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