スターリーナイト

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「そうだよ。一誠と志織のことに俺は無関係だよ。だから、俺のことをこれ以上巻き込むなよ。ガチで迷惑だし、いい加減我慢の限界なんだよ。俺たちはただの友達だろ。もう、これ以上俺に構うなよ」  苛立ちに任せて吐き捨てる様に発した言葉は想像していたよりもずっと大きく部屋に響いた。 「我慢って……。お前、俺と一緒にいる時、我慢してたの?」  一誠の言葉に何度も頷く。 「そうだよ。お前と一緒にいるとガチで疲れる。分かっただろ?もうやめよ。その方がお互いの為だよ」  重苦しい沈黙の時間だけが流れていく。鼓動はいつもより早さを増し、胸が苦しくて息がしずらい。  言ってしまった言葉をなかったことにはできないし、散々黙りこくってしまった結果、今のは全部冗談だと誤魔化せる雰囲気でもなくなってしまった。 「……意味分かんねえ。今日は帰る」  テーブルの上に箸を置いた一誠が荷物を掴んで静かに立ち上がる。その姿を視界の端に写しながら 「もう来るなよ。家にも店にも。今日で全部終わり」  と追い打ちをかける。 —— 一誠のことが好きだ。  好きだからこそ、一誠の結婚を素直に喜ぶことができない自分に嫌気がさす。  ずっと一誠の隣にいたかった。それは友達としてではない。志織のことがずっと、ずっと羨ましかった。一誠の特別な存在になりたかった。  絶対に叶わないと分かっていながら、その願いを抱えて生きていくことは地獄だ。淡い期待に任せてこの想いを伝えたところで、一誠を困らせるだけだということも分かっている。   だから、今ここで終わらせてしまう方が良い。 「それ本気で言ってんの?」  一誠の小さな声に胸の奥がいっそう強く痛みを発する。自分勝手な言動で誰よりも大切な一誠を傷つけた。もう後戻りはできない。  一誠の顔を見る勇気などない。できるのは虚勢を張ることだけだ。 「冗談でこんなこと言うかよ」 「……分かった」  一誠が部屋を出て行き、玄関ドアが耳障りな音を立てて閉まる。部屋の空気はしんと静まり、視界の先では一誠の為に作った料理がゆっくりと熱を失っていく。  どうしてこんなことになったんだ。あぁ、そうか。と小さく笑みを浮かべる。
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