スターリーナイト

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「志織。久し振り。来てくれたんだな」  中学、高校、大学——ずっと同じ学舎で過ごした、言ってしまえば腐れ縁である彼女の名を発し、久し振りの再会に笑みを浮かべると、志織があからさまに表情を歪めた。 「なにヘラヘラ笑ってんの?」 「別にヘラヘラなんてしてないよ」 「してるでしょ。あ、いきなりすいません。ちょっと海里と話しても良いでしょうか」  突然の志織の登場に、絶対に何かが起こる‼︎と期待している明香に向かい、志織が小さく頭を下げる。明香の瞳はキラキラと輝いている。 「はいっ。大丈夫です。残ってる業務は閉店業務だけですから。ごゆっくり」 「ありがとうございます。では、失礼します」  店内に細いヒールを乱暴に打ち鳴らしながら目の前に立った志織が、伸ばした両手で海里のシャツの襟を力強く掴む。 「志織、く、苦しい」 「分かってる。分かっててやってる」 「な、なんで?俺、志織になんかした?」 「私にはしてない。でも、一誠に酷いこと言ったでしょ?記憶にないなんて言わせない」  志織の言葉に血の気が引いていく。一誠からあの夜のことを聞いた志織は、一誠が傷つけられたことを許せなかった。  だから、こうして片道1時間かけてまで星月夜を訪ねた。やっぱり一誠と志織は想い合っている。その現実を目下に突きつけられて胸の奥が痛みを発する。  分かっていた。分かっていたのに——苦しい。 「ちゃんと覚えてるよ。酷いこと言って悪かったとも思ってる。でも、アイツとはもう友達でいられないんだ。一誠のことよろしくお願いします」  志織の両手にそっと触れると、間近からこちらを見ている志織の大きな瞳から一雫の涙がこぼれ落ちた。 「ちょ、え、待って。そんな、泣くほどのこと?」  予想外の展開に狼狽えている海里の手を志織が乱暴に振り解く。 「泣くよ。泣くに決まってるじゃん。私は、相手が親友の一誠だから諦めるって決めたの。一誠のことよろしくお願いしますって何?私は一誠と海里に幸せになって欲しかっただけだよ」  志織の言葉にはてと首を傾げる。興奮していて自分の言葉に重大な間違いがあることに気がついていないらしい。 「幸せになるのは一誠と志織だろ?近いうちに結婚するって陸から聞いたよ」  おめでとう。そう言いたかったのに、うまく言葉に出せなかった。 「は?私と一誠が結婚するわけないでしょ」 「すればいいじゃん。お互いがお互いのことを好きなんだし」  吐き捨てる様に発した言葉に志織が小さく息を吐く。 「私は一誠が好き。でも、それは友人としてだよ。私が恋愛対象として好きだったのは、一誠じゃなくて海里だよ」 「………………は?」  思っていたよりも呆けた声が出た。 「本当は言うつもりなかったんだけど、もうこの際だから言うね。私が好きだったのは海里。中学の時からずっと好きだった。少しも気付かなかったでしょ。海里はいつだって一誠のことばかり見てた。私の気持ちに気付くわけないよね」 「え、え?ちょ、待って、待って。何がなんだか分かんない。俺は一誠と志織は両想いで、もうすぐ結婚するから一誠のことは諦めなきゃって思って……」 「あんなバカげた噂話を信じて一誠のこと傷つけたの?信じられない」 「俺だって信じられないよ。志織と一誠はいつだって周りが羨むカップルだった。俺が入り込む隙間なんてなかっただろ」 「私、一誠と付き合ってるなんて誰にも言ったことないよ。周りが勝手に騒いでるだけだから放っておこうって一誠とも話してた。噂話を否定しなかった私と一誠も悪いけど、まさか海里まであの噂を信じてたなんて……」  何が真実で何が嘘なのかを確かめる勇気がなかった。確かめた先に一番辛い現実が待ち受けている可能性は充分にある。世の中には知らない方が良いこともある。そう思って放置していた問題が、こうして真正面からぶつかってくるとは思ってもいなかった。
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