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「お客様、いかがなさいましたか?」
「何だ、お前。この女より話の分かる、上の人間か?」
「私は、役職ではございません。ですが……」
そこで末緒は、手元のパンフレットを開いて、客に見せた。
「お客様の御腹立ちはもっともですが。こちらを確認いただけましたでしょうか?」
『ショーの時間・内容は予告なく変更する場合がございます。予めご了承ください』
「え? う……」
「本日は、イルカのミコちゃんが体調を崩しておりまして。致し方なく、ショーを短くさせていただきました。申し訳ございません」
「そう? でもなぁ!」
「お詫びに、お客様にはこちらをサービスいたします!」
そして末緒は、男に向かって勢いよく、折り紙のイルカを差し出した。
本来は、小さなお子様向けのプレゼントだ。
空き時間を利用して折った、末緒の手作りイルカは、有無を言わさず客の手に押し付けられた。
「今度は、元気になったミコちゃんに会いに来てくださいね! お待ちしてます!」
「お、おう。ミコちゃんに、よろしくな……」
末緒の笑顔と機転、そして勢いで、その場は収まった。
「ありがとう、末緒くん。ごめんね。ホントに、ありがと……」
涙で目を赤くした井上が、しきりに御礼を言ってくる。
「困った時は、お互い様。気にしないでね。それより、僕が頭にきたのは、澤さんだよ!」
末緒は立ち上がると、猛然とイルカプールへ向かって駆け出した。
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