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「なんかさ、“今つらいことも、何年後か振り返れば思い出になる“みたいな言葉あるじゃない。
確かに納得はするけど、私はあんまり好きじゃなくて。
未来に思い出になるのはわかった、でも私は”今“つらいんだ、って。その言葉は”今“つらい私を救ってくれないじゃないかって。
そもそもつらさの元凶は、今いる環境だよね。でも小学校・中学校の時の世界を変えるのって、ものすごく難しいと思う、大人に統制されないといけない世界だから。
でも、だからこそ、私は”今の“琴子ちゃんのつらさを拭いたい―――
―――きっと私たちはすごく似てるから。」
そう言ってはにかむ由希奈さんが、うれしくて頼もしくて、私にも味方がいたと、胸がいっぱいになった。
こらえきれずまた泣き出した私を、由希奈さんはまた優しくあやしてくれるのだった。
それからなんでもない会話をして、夜になり、ふたりで夕食をとり、一緒に寝た。
―――翌朝。
いつも通りの時間に起きると珍しくすでに起きていた由希奈さんがキッチンにいた。キッチンの由希奈さんから声がかかる。
「おはよう、ちゃちゃっとごはん食べて、学校行こう、一緒に!」
「おはよ―――、一緒に!?」
身支度を整え玄関先に行くと、外出準備をした由希奈さんが待っていた。
「一緒にって、本当に一緒に登校するの?」
私がおずおずと尋ねると
「もちろん、学校の中には行かないよ?
ただ、あの長―い坂を一人で登るのって退屈だし鬱々としちゃうかと思って。おしゃべりしながらのほうがマシかなあと。」
けろっと答えてしまう彼女に困惑しながらも、笑みがこぼれる。
中学生の登校時間はきっと、大学生の由希奈さんにとっては結構早い。
それでも由希奈さんは昨日言ってくれたように、私の生きづらさを払拭しようと、考えてちゃんと行動を起こしてくれたのだ。
こんな朝早くに起きて。そんな彼女の心意気が私にはとてもうれしかった。
「ほら、遅刻するよ」
由希奈さんが私の手を引いて、ドアを開ける。
「「行ってきます」」
悶々とした生活のなかで突如として現れた、新しい姉。けれど、由希奈さんとの出会いで、私は何か変われる気がする。そう確信した。
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