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――前の二人は私が立ち止まっていたことに気づかず、歩き続けていた。
遠ざかっていく二人の背中を見ながら考える。
これって靴紐を結ぶから待ってほしいと言わなかった私が悪いの?
というか、そもそもいなくなった私に気づきもしないんだ。
やばい泣きそう。
そうぐるぐると考え込んでいると、前から遅れた私に気づいた唯が、大声で私に向かって叫んだ。
「なにしてんのー。早く帰ろうー」
謝ってくれるとかは無いんだ。ああ、私ってこんなに必要とされていない人間なんだ。
そう痛感してさらに落ち込んだ。けれど、私はこの小さな教室(せかい)で居場所を失うわけにはいかない。
その一心で、悲しい気持ちを押し殺し、前の唯たちに追いついて、なんとか家に帰った。
帰宅すると、“父”と母の靴がなく、少し安堵する。今日はひとりで籠っていたい。
ゆっくりとした動作で靴を脱いでいると、リビングのドアから由季奈さんが出てきた。
ああ、そうだ由希奈(このひと)さんも一緒に暮らしていたんだ。「ただいま」とだけ告げて、そそくさと立ち去ろうとすると、
「ちょっと来て。」
由希奈さんの温度のないその言葉にビクリとする。何か怒らせてしまうようなことしたっけ。
ああ、朝の私の態度が悪くて怒っているのかもしれない、というかそもそも私の存在自体この人にとっては気に食わないのかもしれない。
そんな考え事をしながら、由希奈さんの部屋の前まで連れていかれる。
「開けて」
由希奈さんはそう告げるが、他人の部屋を開けるのは憚られた。しかし、怒っていそうな相手の言うことに逆らうほど、私は殊勝な人間ではない。
恐る恐る扉を開けるとそこには―――
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