0人が本棚に入れています
本棚に追加
「リーチ!」
端っこの席にいた男性が立ち上がる。
ハヤトは焦っていた。ネットで募集されたビンゴ大会に参加していた。300人いる会場で数字が読み上げられる。ハヤトはいちばん早くリーチになっていた。しかし、これでリーチは3人目だ。
ビンゴ大会の1位の賞品はシークレットにされていたものの、豪華なのは間違いなかった。なにせ参加費が10万円なのだ。それだけの価値があるとだれもが信じていた。
「52番!」
あぁ、とため息が会場を包む。だれも該当しなかったようだ。今度こそ…。祈るように目をつぶる。
「56番!」
やった、ハヤトの待っていた数字だった。
「ビ、ビンゴ!!」
興奮していた。
「ビンゴの方、前に出てきてください〜!」
司会の蝶ネクタイが、うながしてくれた。
ハヤトは羨望の眼差しを感じながら、前に向かう。
「1位の賞品は、彼女です」
袖から1人の女性があらわれた。目鼻立ちが整っていて、赤いドレスからすらっとした脚が見えた。
「え?」
会場がザワつく。
その日からハヤトに彼女ができた。
彼女を家に持ち帰ったが、まったくハヤトの好きなタイプではなかった。
鼻は高くて彫刻のよう。美人ではある。モデル体型。ハヤトはぽっちゃりしていて丸い顔の女の子が好きだった。
だが毎日過ごしているうちに、ハヤトは彼女の良さが見えてきた。仕事で悩んだときは聞いてくれる、彼女が困ったときは頼ってくれる。ハヤトの作った料理もおいしく食べてくれる。喧嘩することもあった。だけどとにかく話し合うことを優先して、お互い仲直りをしようとした。
そしてハヤトは彼女と結婚した。
子どもは女の子が2人、産まれた。
すくすくと育ち、巣立っていった。
ハヤトは彼女といっしょに年を取り、老後を過ごした。幸せな人生だった。心の底から思えた。
理想の彼女を追い求めることなんて必要ない。きっと相手をしっかり見れば、幸せは訪れるものなんだ。
そう、人生はビンゴのようにランダムなくらいがちょうどいい。
最初のコメントを投稿しよう!