面倒見の良い家主

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面倒見の良い家主

谷重邸での滞在、本日で3日目です。 もう既に、私は『お嫁に行けない』というセリフを何度口にしたことでしょう。 既に、カウントしていません。 まず初日にて。 トイレ問題と入浴問題が発生。 体感を鍛えておけばよかったと、これ程自分の人生を悔やんだ事はなかった。 片足で立つことが出来れば、おトイレに行くこともお風呂に入ることも一人で出来たはず。 食べる物が消化されれば、人間は必然的に、排泄物問題に直面するのは当たり前の話。 モジモジし始める私に臆することも無く、谷重さんは『トイレ?』と聞いてきた。 1人で勝手に行ける状況では無い私は、どうしようか悩みながらも少し顔が赤くなる。 この人、無駄にイケメンすぎるのよ。 そして行動力があり過ぎる。少しは躊躇って。 そんな私を構うことなく、谷重さんは子供抱きでスタスタとトイレに向かう。 とりあえずトイレの中に連れて行ってもらって、それからは自分で何とかしよう。そう考えた私が甘かった。 便座の前でそろっと降ろされた私から離れようとせず、私がまだ谷重さんの首に腕を回した状態。そして谷重さんは抵抗感もなくズボンを下ろそうとしてきた。 『ちょっ…!!待って!!』 『…待っても良いけど…一人でどうやってズボン下ろす?』 中腰状態のまま、谷重さんは尋ねてくる。 だからといって、今日初めて会った人にズボンや、ましてやパンツを下ろされるなんて有り得ない。 一人で何とかするといった私の案は却下された。 捻挫が悪化する未来しか見えないと。 無様に転けた姿を見られている私は反論出来ない。 そうして出た妥協案というと。 手首は捻挫していても腕は大丈夫なので、谷重さんの首に右腕をかけ、左手で自分で下着を下ろす。 その間、谷重さんには目をつぶってもらうというもの。 『…俺が下ろした方が早いのに…ちょ…まだかかるか?中腰…微妙に辛いんだけど…』 身長の高い谷重さんの首に抱きついた状態で私が立つという事は、当然、谷重さんは中腰状態をキープするようになる。 そして私は左手だけで着衣を脱ぐという行動が如何に不便か思い知る事になった。 これ以降、私はズボン禁止になった。 手持ちのワンピースはあったが、カッチリしたシャツワンピースだった為、谷重さんのスエットの上を借りることになった。 短めのワンピーススタイル完成だ。 本当は足が出るので遠慮したかったが、お世話になっている以上あまり拒否も出来なかった。 それでも裾を引っ張り下げてしまうのは仕方ない。 羞恥心という物があるからだ。 その私を見て、谷重さんはキョトンとした顔をする。 何故分からないのか。恥ずかしいからだ。 綺麗な足という訳でもない。太いところは太いのだ。 『別に悪くないと思うがなぁ。大体“太腿“っていうのに棒みたいな足見てもなぁ。脚線美っていうの?綺麗なラインだと思うけど?』 ケロッと言われ、私は顔を真っ赤にした。 そしてもう一つ。 入浴問題。 めちゃくちゃ拒否した。 でも1週間、シャワーすら無しというのは無理だ。 だから脱衣所で裸になり、身体がスッポリ隠せる大判のバスタオルで身体を隠して、その状態で浴室に連れていかれる。 目をつぶってもらって、バスタオルを渡す。 そして背中だけは洗ってもらう事になった。もちろん目をつぶってもらってだ。 いくら好意だとしても、他人には言えないくらい、普通では有り得ない話だ。 そんな訳で、今日で三日目。 もうこんな事、誰かに知られたらお嫁に行けない。 そう呟いた私に、谷重さんは言った。 『…薄井は知ってるけど?』 能天気に言われたのだった。
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