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帰郷の途中
結婚の報告の為に私の実家に帰る事になった。
将悟さんは仕事をどうするんだろう?と思っていたら、何と、私の地元にある谷重グループのホテルに出張という形で行くのだという。
しかも地元の食材を買い物して帰ると言い、車で行くと決まった。
「車、運転するの好きなんだよなぁ。最近は中々出掛けれなかったけど、結構長距離走らせても平気なタイプ」
と、嬉しそうだ。
将悟さんが所有している車は、あまり振動も感じない高級車だ。走行距離が長くても快適そう。
「車、詳しくないけど、この車目立ちそう…」
「え?何で?似たようなの乗ってる奴もいるだろ?」
嬉しそうに運転している将悟さんは不思議そうな顔をして話してくる。
「あんまり見た事無いもん。この車。」
「まぁ、あんまり見ないのは確かに…。」
休憩を挟みながらどんどん車を走らせ、気付けば地元へ。
最初に将悟さんの仕事を終わらせる為にホテルへ。
私は別の所で待っているのかと思ったら、そのまま引き連れられて中へ行く。
「…お久しぶりです、井堀さん」
ホテルのオーベルジュへ到着。
将悟さんが挨拶してるって事は総料理長かな?と思っていたら、紹介され、正にその通りだった。
何でもベルギー時代にお世話になった方で、日本に戻る時にこのホテルを紹介したらしい。
二人で食材の話をしている横にいる。楽しそうな将悟さんを見てるのも楽しい。
「ブラッドオレンジの国産を探してるんだが…」
「モロが欲しいですね」
専門の話は所々分からないけど、オレンジの話なんだろうな。
ぼんやり聞いていたら、井堀さんと目が合った。
「あぁ、悪い悪い。婚約者連れてるのに話を長引かせるのも悪いな。おめでとう。また正式にお祝いさせてくれ」
笑顔でそう言われた。優しそうな方だった。
そして挨拶をして別れた。
「さて、フリーになった。夕方、優花の実家だよな?その前にせっかくだし野菜とか売ってる所見たい」
観光じゃないんだ?と思って面白かったけど、料理人の将悟さんらしいと納得した。
実家の近くの農産物直売所へ行く。
「ふふっ」
「…え?何?」
あんまりにも嬉しそうで、思わず笑ってしまった。
その私がよく分からなかったのか、将悟さんは私を見てくる。
「…嬉しそう。野菜とかフルーツばっかりなのに。流石料理人」
「…いや、またフランスとは違って面白い。マルシェとも違うしな。野菜の種類も違うし」
そう言いながら、片手にカート、片手は私の手を握って歩く。
長ネギを見て「立派」と嬉しそう。
「…カボス…。すだちの仲間?」
緑色の柑橘類を持ち、ラベルを見て呟いている。
私はそのラベルに見覚えがあった。
生産者の顔が載ったラベル。
「…斉川…優一…」
将悟さんがラベルを読んでいる。何か勘づいたみたいだ。
「あ、それ。将悟さん…」
「…はい?斉川ですが?」
私の声と被るように、将悟さんの後ろで声がした。
二人で振り返る。
「優花?」
「お父さん」
またしても声が被る。そして将悟さんは驚いている。
まさかこんな所で父と会うとは思っていなかったのだろう。
私だって思っていなかった。
そしてあまり身長の高くない父は、将悟さんを見上げている。
「初めまして。ご自宅に伺った際にご挨拶をさせて頂こうかと思っていたのですが、谷重将悟と申します。」
「…あ、あぁ。先日はお電話を頂いたようで。丁度家に居なかったもので…。」
「お父さん、商品出すの手伝う?」
道の真ん中で話を長引かせるのもと思い、父にそう申し出る。
「いや、お客さん連れてるんによか。また後で家でゆっくり話せばよかたい」
懐かしい方言で話された。ちょっと和む。
「じゃあ後で家で」
そう言って別れた。
「…びっくりした。コレ、お父さんが作ってるやつ?」
将悟さんの手にはカボスがあった。
「…うん。お父さんは柑橘類。今の時期は温州みかんとかカボスかな。あとオレンジとか…。お兄ちゃんがブドウ作ってる」
「…違う作物作ってるんだ?」
「柑橘類はお姉ちゃんと旦那さんが一緒にしてる」
将悟さんは楽しそうに話を聞いてる。
「何か優花がフルーツ好きなの分かった気がする」
実家はフルーツ作ってるし、土地柄的にもフルーツが特産だし。確かに小さい頃からフルーツはよく食べていた。
「…畑…見てみたいって言ったら…悪いかな?」
「実家へ行くのと変わらないから別に良いけど…。特に面白いものはないと思うよ?」
「柑橘類とかブドウ作ってるなら、土地が高い所なんだろ?少なくとも景色は良さそう。」
地元に着いて、将悟さんはずっと楽しそうだ。
多分、将悟さんは何でも新しい事を楽しめる人なんだろうな。
何だか可愛くて、私も嬉しくなる。
「…じゃあ行きます?山の上に登ったら、確かに景色は良いですよ?海も見えるし。」
「良いね〜。日本の景色も久々だから何見ても楽しくて良いわ〜」
足早に動き出した将悟さんと共に歩き出した。
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