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2 放課後の深山くん
深山に勘違いでボコられかけてから、数日経った。
急に冷え込んできて、カラッとした風が強く吹いている。今日はついにベストを着た。朝はそれで良かったが、日が当たる窓側の席にいるからか、だんだん暑くなってきた。かと言って脱ぐほどでもなく、もう少しだけ窓を開けて風を感じることにする。
藤城は相変わらずスラッとした長身に紺色の薄っぺらいベストがよく似合っていた。
「マジ羨ましい」
「何が」
「身長」
「スエちゃんはそれでいいんだよ」
「は?うぜー」
俺だって170cmあるし。………日によっては。……あと履物によっては。
中3の時にぐんと伸びて、4月には169cmまで伸びた。だからあと1cmは余裕だなと思っていたのに、どうも最近伸びが悪い。意識してカルシウム取ってるのに。
「俺も高身長イケメンになりてえ」
「あは、俺も」
「マジで藤城うぜー。今日一日口開くな」
「ひっど」
その笑みもキラキラして見える。腹のたつ奴だ。
宇留田が乱入して、話題はどんどん逸れていく。次の四時間目まではまだ三分あった。
ふとぼーっと外を眺めていると、フェンスと茂みの向こうにやたら目立つ髪色の男が居た。上は黒のまま、下半分が翠色のグラデーションになっている。人通りの少ない校舎前の通りだからか、余計に目立つ。何となくじっと見ていると、その男が前髪を分けた。
「あ」
「どしたんスエちゃん」
「ん?ううん。知り合いが居ただけ」
「へ〜女の子?」
「ちげーよ」
深山だ。髪色がすっかり変わっている。前よりずいぶん大胆な色だ。学校に来たのなら、また図書室でサボっているかもしれない。昼休みに顔でも出してみようかな、と、単なる暇つぶし程度に考えて、ちょうどよくチャイムが鳴った。
4時間目の終わり、先生の話が少し長引いた。購買のパン戦争に参加する気まんまんだったので、ダッシュで一階の公共スペースに降り、もうすでに出来ていた人だかりに頭を突っ込む。今日は藤城情報によると、コロッケ焼きそばパン。絶対に勝ち取りたい。
揉まれつつも左手は無事にパンを掴んだ。その勢いで、目についたメロンパンもさらい、小銭をおばちゃんに渡す。大きめのパンを2つ抱えて群れから抜けるが、そこに藤城と宇留田の姿はない。
「だりーまじ、昼ミーティングとかさー」
そんな声が聞こえて振り返る。宇留田と同じバレー部のヤツがぐちぐちと言っているようだ。なんだ、今日一緒に食えないのか。クラスに戻れば藤城か、まあ誰かは居るかな。
騒がしい中、一人で階段を上がった。その時にふと思い返す。…今日の朝、腹減りすぎてコンビニでおにぎり2つ買ったんだった。そんで1個余ってるはず。メロンパン要らなかったかも。
藤城なら食うかな。…ああそういえば、深山来てたんだっけ。目に入った図書室の扉を見て、自然と足はそちらに向かっていった。
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