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誰かの声が聞こえた気がして、尾畑源之丞は薄っすら目を開けた。
共に目が醒めたらしい妻が起きようとするのを手で制して、源之丞は一人声のするほうへ向かう。月明かりを頼りに勝手口へ近づくと、下男と見知った男が立っているのが見えた。
「こんな夜更けになんだね」
「ああ、庄屋さん。やっぱり噂は本当だったんだ、俺は見たんだ」
下男より先に勢い込んで話し始めたのは小作人の吾郎だ。三十路もとうに過ぎた男だが、怖い夢を見た子供のように震えている。
「落ち着け、何があった」
「幽霊だ、幽霊……。かかあが言っていた通りだ。大桜の前で、幽霊が踊っていたんだよ!」
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