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じっと彼を見て、頷く。
これは別に、やけになったわけではない。
それが最善だとジャッジを下しただけだ。
「よし!」
右の口端をつり上げて笑う矢崎くんはなんだか企んでいそうで、早くも後悔しそうになった。
居酒屋を出てその足で役所へ行き、婚姻届を提出した。
こんな考えなしな行動ができるなんて、酔った勢いって恐ろしい。
「結婚したんだから今日はもちろん、俺んちに泊まるよな?」
「そうだねー」
もうその気なのか、矢崎くんはタクシーを捕まえて私を押し込んだ。
「そういえば矢崎くんちって初めていくな」
入社以来の付き合いで、私の家には何度も送ってもらっている。
しかし一度だって、彼の家に行ったことはなかった。
よく考えたら、どこに住んでいるのかすら聞いたことがない。
「そうだっけ?」
彼はすっとぼけているが、なんか誤魔化された気がするのは気のせいだろうか。
タクシーは立派な高層ビルの下で止まった。
まさか、ここに住んでいるなんてはずはない。
「えっと……」
「急な泊まりだからなにも準備してないだろ?」
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