第二章 それまでは夫婦でいさせて

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ママさん社員の仕事のフォローをしている私は実質、ふたり分の仕事を抱えている状態だ。 平日だけで片付かない仕事は土日にやるしかない。 「……まだ改善しないんだな」 眼鏡の下で深刻そうに矢崎くんの眉が寄る。 「そうだね」 それになんでもないように答え、鮭を解す。 上司には現状を訴えたものの、しばらくの辛抱だからと取り合ってくれない。 人員補充で入ってきた社員が三日で辞め、人手不足なのもわかる。 なら、私がやるしかないのだ。 「そうやって頑張るとこ、純華のいいところだけど悪いところだぞ」 行儀悪く矢崎くんが箸の先で私を指す。 それを睨んでいた。 「わかってるよ」 回せる仕事はできるだけまわりに振っている。 それでも、どうにもならないのだから仕方ない。 「新居も探さなきゃだし、指環も買いに行きたいけど、当面は無理かなー」 はぁーっと諦めるようなため息が矢崎くんの口から落ちる。 「あのさ」 「なに?」 「離婚……」 「しない」 全部言い切らないうちに、被せるように彼は拒否してきた。
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