867人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
矢崎くんは朝食を食べてしまい、丁寧に手をあわせた。
そういうところ、育ちなのかな。
「そんなわけで俺は絶対に純華と離婚しない。
純華が俺を嫌いだというのなら話は別だが」
そう言われて勝機が見えた気がした。
「私は矢崎くんがきら……」
速攻で彼を拒絶する言葉を口にする。
しかし、最後まで言い切らせないように彼の唇が私の唇を塞ぐ。
唇が離れ、テーブルに身を乗り出している彼を上目で睨んだ。
「……嫌いだよ」
これはさっきと違い、心からの気持ちだ。
「嘘だね」
椅子に座り直し、矢崎くんが私から視線を逸らして麦茶を飲む。
「嫌だったらもっと嫌そうな顔するし、平手の一発くらい喰らってるはずだ」
「うっ」
図星すぎてなにも言い返せなかった。
彼とのキスは嫌じゃない、むしろ――嬉しい。
けれど私には、受け入れられない理由があるわけで。
「明確に嫌いだと拒否されない限り、俺は離婚なんてしないからな。
ほら、早く食べてしまえよ、遅刻するぞ」
「ううっ」
しぶしぶ、残りのごはんを食べてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!