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そんな私の前で、矢崎くんはなにが楽しいのかにこにこ笑って私を見ている。
彼がこんな、頑固で粘着体質だなんて知らなかった。
考えなしに昨晩、勢いで入籍してしまった自分を叱り飛ばしたい気分だ。
片付けは食洗機があるからと矢崎くんがさっさとしてしまった。
「いってきます」
出社する準備ができたところで、彼が私にキスしてくる。
それを避けようと顔を背けたら、手で掴まれて強引に唇を重ねられた。
「だからー」
「嫌なら引っ叩けばいいだろ」
「うっ」
抗議したところで矢崎くんは涼しい顔をしている。
それに私にも彼を叩くなんて気持ちはまったくなかった。
「あ」
鞄を手に玄関に向かいかけた矢崎くんが、なにかを思い出したかのように足を止める。
「会社では俺たちが結婚したことは内緒な」
悪戯っぽく彼が、人差し指を唇に当てる。
「会長とか身内にバレるといろいろ面倒だからさ。
今抱えてる仕事が上手くいったらうるさい連中も黙らせられるから、ちょっと待ってくれ」
さらに彼は、片手で私を拝んできた。
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