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「私はこの仕事が好きなの。
結婚より仕事が大事だから」
『……そういうとこ、父さんそっくりで嫌になっちゃう』
ぽつりと呟いた母は淋しそうで、申し訳なくなった。
『わかった。
土曜のお見合いは断っとく。
でも母さんは純華の結婚を諦めてないからね。
都合のいい日を連絡して』
「はいはい」
とりあえずはなんとかなったものの、この先を思うと気が重くなる。
もう二十八も後半となれば、母は崖っぷちだと思っているのかもしれない。
どうも今日は、珍しく占いが当たったようだ。
母との通話を終え、手早く出勤準備をする。
化粧はクッションファンデを塗って眉を引き、口紅を塗っただけ。
本当はそれすら面倒だが、イベント関連の部署に勤めているので、最低限のメイクは必要だ。
美容院に行くのが億劫で伸ばしっぱなしの黒髪は、邪魔にならないようにひっつめお団子に。
服は機動性重視の黒のパンツスーツを着て、私の出勤スタイルは完成だ。
「やっぱり無理だよ」
鏡の前で自分の姿をチェックして、苦笑いが漏れる。
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