第二章 それまでは夫婦でいさせて

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「ああ、うん。 わかったよ」 そうか、矢崎くんも後継者としていろいろ事情があるんだ。 鏑木社長みたいに後継ぎを公言して憚らない人もいるもんね。 その理由にだけは納得した。 一緒に並んで駅までの道を歩く。 「引っ越しは追い追いするけど、とりあえず今日から俺んちに住めよ」 「ええーっ」 つい、口から不満が漏れる。 だって私はまだ、離婚を諦めていないのだ。 「ええーっ、じゃない。 終わったら純華んち行って、荷物持って俺んち。 わかったな?」 そんなこと言われたって、承知できるはずがない。 なのに。 「わかったな」 私の前で振り返り、矢崎くんが指先を突きつけてくる。 眼鏡の奥の目は真剣で、私に拒否を許さなかった。 「う、うん」 おかげでつい、頷いてしまった。 仕事はいつもどおり……ではなく、ママさん社員の加古川(かこがわ)さんから、子供の調子が悪いので休むと連絡が入っていた。 まあ、それもいつもどおりといえばいつもどおりだけれど。
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