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「ああ、うん。
わかったよ」
そうか、矢崎くんも後継者としていろいろ事情があるんだ。
鏑木社長みたいに後継ぎを公言して憚らない人もいるもんね。
その理由にだけは納得した。
一緒に並んで駅までの道を歩く。
「引っ越しは追い追いするけど、とりあえず今日から俺んちに住めよ」
「ええーっ」
つい、口から不満が漏れる。
だって私はまだ、離婚を諦めていないのだ。
「ええーっ、じゃない。
終わったら純華んち行って、荷物持って俺んち。
わかったな?」
そんなこと言われたって、承知できるはずがない。
なのに。
「わかったな」
私の前で振り返り、矢崎くんが指先を突きつけてくる。
眼鏡の奥の目は真剣で、私に拒否を許さなかった。
「う、うん」
おかげでつい、頷いてしまった。
仕事はいつもどおり……ではなく、ママさん社員の加古川さんから、子供の調子が悪いので休むと連絡が入っていた。
まあ、それもいつもどおりといえばいつもどおりだけれど。
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