第二章 それまでは夫婦でいさせて

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他の部の一課長から進言されたところで、部外者がなにをと一笑されるのがオチだろう。 「今の仕事が上手くいったらいろいろ口出しできるようになると思うけど、それまでに純華が倒れかねないもんな……」 また、矢崎くんの口からため息が落ちていく。 「その気持ちだけでもありがたいよ」 まわりはしばらくの我慢だからとしか言わないが、彼はこうやって私を気遣ってくれる。 それだけで嬉しかった。 「いや。 これは会社にとって大問題だ。 しばらく様子見てたけど、全然改善しないし。 純華ももう、限界だろ? 会長に言うよ。 ちょっとやり方が汚いけどな」 自嘲するように矢崎くんは笑っているけれど。 「え、いいよ。 そんなことして矢崎くんの立場が悪くなったらヤだし」 そういう越権行為というか密告というかいうのをやって彼が他の役員から睨まれたりしたら、申し訳なさすぎる。 「純華は優しいなー」 私の心配などわからないのか、矢崎くんは実に締まらない顔でへらっと嬉しそうに笑った。
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