第二章 それまでは夫婦でいさせて

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もうすでに誰かに公表しているとかならあれだが、現時点で私たちの結婚を知っているのは私たち自身と、処理をした役所の人間しかいない。 なら、書類上の記録は残るが、表面上はなにもなかったことにできるはずだ。 なのにこんなに、矢崎くんが私との結婚に拘るのかわからなかった。 「反対に聞くが、どうして純華はそこまで俺と離婚したいんだ?」 「うっ」 聞かれても私の事情は絶対に話せない。 これは父の意思を尊重して、墓場まで持っていくと母と決めたのだ。 だから矢崎くんが私の旦那様でも、これは話せない。 「……私が将来、矢崎くんの弱みになるからだよ」 かろうじてそれだけを絞り出した。 それにこれは嘘ではない。 もし私の父のことを知れば鏑木社長は私を糾弾するだろうし、会長も矢崎くんの親もいい顔はしないだろう。 それどころか、矢崎くんからも見放される可能性がある。 「母子家庭なのを気にしてるのか? そんなの、いまどき珍しくないだろ。 それとも父親が女を作って出ていったほうか?」 テーブルに腕を置き、矢崎くんが軽く前のめりになる。
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