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両親の離婚の理由は父親の浮気ということにしてあるが、これは本当ではない。
適当に誤魔化す理由が必要でも、父を病死などで殺せなかった。
母も嘘でも父さんを殺せないしと、苦笑いでこの理由を承知している。
「そう、だね。
……もし、さ」
座り直し、レンズ越しに真っ直ぐに彼の瞳を見る。
何事か感じ取ったのか、彼も姿勢を正して私を見つめ返した。
「私の父が犯罪者……だったら、どうする?」
どくん、どくんと心臓の音が妙に大きく響く。
じっと私を見つめたまま、矢崎くんは黙っている。
私を拒絶する答えだったとしても、失望しない。
それが、普通の反応だ。
でも。
――それでも。
彼が私の欲しい答えをくれたなら。
少しだけ、この結婚を受け入れてもいいかもしれない。
「純華とお父さんは別の人間だ。
お父さんが犯罪者だからって、純華自身が罪を犯したわけじゃないから、関係ない」
矢崎くんの瞳は、確固たる信念で溢れていた。
ここまでの答えには満足して、さらに先を続ける。
「……もし、私が犯罪者、だったら?」
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