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母は私だって頑張れば結婚できると言っていたが、地味なうえにつり目で唇も薄く、怖そうな私となんて、誰だって結婚したくないだろう。
通勤電車に揺られて出勤する。
「おはよ」
「お、おは、よう」
最寄り駅を出たところで肩を叩かれ、びくっとした。
すぐになんでもないように、同期の矢崎くんが並んで歩く。
私なんてすらりと背の高い彼の、胸までしかない。
当然、それだけ歩幅も違うのだが、彼はいつも私にあわせてくれた。
爽やかに切りそろえられた黒髪を七三分け、涼やかな目もとを黒縁スクエアの眼鏡が引き立てる。
薄いけれど唇は形が整っており、間違いなくイケメンだ。
実際、周囲の女性たちの目を独占していた。
さらに二十代のうちに同期で一番早く課長になり、出世頭なので会社では同期や年下だけではなく、年上の女性たちも狙っているという話だ。
そんな彼と並んで通勤なんて優越感――などまるでなく、私にとって彼はただの友人枠だった。
「相変わらず疲れてんな」
「あー……。
まあ、ね」
曖昧な笑顔を彼に向ける。
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