865人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
間抜けにも一音発したまま、穴があくほど矢崎くんの顔を見ていた。
ここにいるって、私の前にはなにが楽しいのかにこにこ笑っている矢崎くんしかいない。
「……もしかして、酔ってる?」
私と結婚したいとか、もうそれ以外に考えられない。
「俺がこれしきで酔うとも?」
「うっ」
今現在、矢崎くんが飲んでいるのは三杯目のハイボールだ。
彼と同じペースでレモン酎ハイを三杯飲み、へろへろになっている私を余裕で支えていつも家まで送ってくれる。
そんな彼が、酔っているなんてありえない。
「じゃあ反対に聞くけど。
矢崎くんは結婚、したいの?」
……私とじゃなく、誰かと。
と、心の中で付け加えた。
「したいな。
俺の夢は可愛い奥さんと子供は三人、あとは犬を飼うことだ。
大型犬もいいが、柴犬も捨てがたく……」
なんだか矢崎くんは真剣に犬種について悩んでいるが、問題はそこじゃない。
「〝可愛い奥さん〟って時点で、私は除外じゃない?」
何度も繰り返すが、客観的に見て私はまったく可愛くないので、彼の希望に添っているとは思えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!