秘密の宴

1/2
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

秘密の宴

 26号が向かった先は、84号の知らない通路でした。  ……随分、深くまできたな。  通路の湿り気で、巣穴の最下層に近づいている気配を感じます。 「入ります」  26号が、スッと隠し部屋のようなくぼみに消えました。  慌てて、84号も続きます。 「2匹とも、よく来た。ご苦労だった」  アルファチームのリーダーが、2匹を出迎えてくれました。 「大儀であった」  その奥から、よく通る声がしました。  威厳に満ちた気高さがありながら、慈悲深さと温もりを感じさせる響きです。 「勿体のうございます」  26号が恭しく頭を垂れました。  リーダーの後ろから、一際大きくふくよかなアリが現れました。女王様でした。  84号はびっくりして、あたふたと頭を下げました。 「よい。楽にしなさい」  女王様が、優しく告げます。  促されて、2匹は顔をあげました。こんなに近くで女王様に接見するのは、初めてのことでした。  女王様は、身体の艶が良く、手足がしなやかに長く、触角がピンと張り、何よりも黒い瞳に吸い込まれるような気品がありました。 「失礼だぞ」  魂を奪われたように呆けている84号の様子に、26号がボソッとたしなめました。 「よい」  顔を真っ赤にした84号を優しく気遣い、女王様は目を細めます。 「皆の働きで、今年はいつになく大量の森の恵みを得た。すでに、春を迎えるのに十分な"食料"も(つど)っている」 「御意」  アルファチームのリーダーが、ニイと口元を歪めました。 「宴の準備は整っておりますれば」 「大儀。いざ参らん」  リーダーが一礼して女王様の脇を抜け、重々しい扉をゆっくりと開きました。  その途端、ブブブ……という低いざわめきと熱気、そして甘く熟れた媚薬のような匂いが流れ込んできました。  女王様に続いて、リーダー、26号が扉の向こうへ消えます。  84号は、甘い匂いにむせながら、フラフラと隣の部屋に入りました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!