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秘密の宴
26号が向かった先は、84号の知らない通路でした。
……随分、深くまできたな。
通路の湿り気で、巣穴の最下層に近づいている気配を感じます。
「入ります」
26号が、スッと隠し部屋のようなくぼみに消えました。
慌てて、84号も続きます。
「2匹とも、よく来た。ご苦労だった」
アルファチームのリーダーが、2匹を出迎えてくれました。
「大儀であった」
その奥から、よく通る声がしました。
威厳に満ちた気高さがありながら、慈悲深さと温もりを感じさせる響きです。
「勿体のうございます」
26号が恭しく頭を垂れました。
リーダーの後ろから、一際大きくふくよかなアリが現れました。女王様でした。
84号はびっくりして、あたふたと頭を下げました。
「よい。楽にしなさい」
女王様が、優しく告げます。
促されて、2匹は顔をあげました。こんなに近くで女王様に接見するのは、初めてのことでした。
女王様は、身体の艶が良く、手足がしなやかに長く、触角がピンと張り、何よりも黒い瞳に吸い込まれるような気品がありました。
「失礼だぞ」
魂を奪われたように呆けている84号の様子に、26号がボソッとたしなめました。
「よい」
顔を真っ赤にした84号を優しく気遣い、女王様は目を細めます。
「皆の働きで、今年はいつになく大量の森の恵みを得た。すでに、春を迎えるのに十分な"食料"も集っている」
「御意」
アルファチームのリーダーが、ニイと口元を歪めました。
「宴の準備は整っておりますれば」
「大儀。いざ参らん」
リーダーが一礼して女王様の脇を抜け、重々しい扉をゆっくりと開きました。
その途端、ブブブ……という低いざわめきと熱気、そして甘く熟れた媚薬のような匂いが流れ込んできました。
女王様に続いて、リーダー、26号が扉の向こうへ消えます。
84号は、甘い匂いにむせながら、フラフラと隣の部屋に入りました。
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