あの桜並木の坂道で

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あれからどれくらいの時が経ったのだろう。 大学も卒業して俺らは社会人となり、別々の生活を送る事となったが、相変わらず週末にはお互いの家を行き来している。 そして今年も、満開になったこの桜並木の下で俺はあいつを待っているのだ。 「(りん)...」 その柔らかい声を背中に受けて振り返ると、俺の大好きなあいつが立っていた。 「遅いよ...悠真(ゆうま)」 「ごめんて、服が決まんなくてさぁ」 「服なんてなんでもいいじゃん」 「良くねぇよ、せっかくのデートだし?記念日だし!」 そう、今日は俺らの記念日。 あの日、ここで、俺らは親友から恋人に変わったんだ。 思い返せば高校生の時、ずっと親友だったあいつの事を好きになってしまった俺は、この気持ちを抑えるのに必死だった。 バレてしまったらきっと気持ち悪がられるだろうし、親友という関係冴え壊れてしまうかもしれない。 そう思ってたから、せめて高校卒業するまではこの気持ちを押し殺して、卒業したら離れよう...そんな事を考えていたと思う。 だけど、絶対にバレちゃいけない俺の気持ちは、ある時悠真にバレてしまった。 卒業を目の前にして、気まずくて話せない日々が続いて、俺は寂しくて悔しくて仕方なかった。 このまま、親友としても気持ちが離れたまま卒業してしまうなんて悲しすぎる。 だけど前のような関係にはもう戻れなくて、悠真を無視し続ける日々が続いたある日、悠真に呼び出されまた仲良くしたいと懇願された。 仲良くしたいだなんて、俺がどんな感情でお前を見てるかわかってて言ってるのか... 俺にとっては拷問のような、だけど元の親友に戻れる嬉しさに、卒業までの日々を大事に大事に噛み締めた。 卒業したらもう会わない。 そう思ってたから――― 「凜、今日で何年目か覚えてる?」 「...う〜ん。8...9...年目?」 「10年目。そろそろ一緒に住まない?」 「や、でもさ…」 あの日、卒業式を終えていつもの帰り道、桜並木のこの坂を上がりきり、お互いの家に帰る別れ道での事。 もうこれで終わりだと思って覚悟を決めてたのに、悠真は俺に衝撃的な言葉で告白してきたのだ。 そして、俺たちは付き合うことになった。 あれからもう10年か... 悠真にはずっと一緒に住もうと言われていたけど、俺はずっと一緒に住む事を拒んでいた。 だって、悠真には彼女を作って結婚して...って言う人生だってあるんじゃないかと思って。 俺なんかに固執しなくたって、きっともっと幸せになれるんじゃないかと思って... 「凜さ、俺と一緒に住むの嫌なの?」 「いや、そうじゃないけど...」 「じゃあなんで?」 「...それは」 「お前なんか勘違いしてるだろ」 「えっ?」 「俺はお前以外好きにならないし、お前以外とは結婚しないから。余計な心配するな!」 「けっ、結婚なんて出来ねぇだろ!?」 「じゃあ結婚なんてどうでもいい。俺は凜と一緒にいたい...」 何も言えなくなった俺に、悠真が人目もはばからず思いっきり抱きついてきて、恥ずかしくでジタバタもがくけれど、悠真の力が強すぎて腕を解くことが出来ない。 「ゆ、まっ...苦しい...っ」 「一緒に住むって言うまで離さねぇから」 「...っ、わかった...っ、だから離してっ」 「よしっ、じゃあ今から物件見に行こうぜ」 「えっ!?今から!?」 「うんっ!」 満面の笑みを俺に向けてくれる悠真はいつも真っ直ぐで、俺はそんな悠真が大好きで... この風景の様に、何年経っても俺の想いは変わらない。 「今年も綺麗だな、桜...」 「ほんと、綺麗だよな」 カシャッというシャッター音に振り返ると、悠真が俺に向けて携帯をかざしニヤニヤしながら言った。 「俺、やっぱ凜の事好きだわ」 「...っ、もう10年も経つのに...?」 「凜はもう俺の事好きじゃないの?」 「す、好きだよっ!ずっと変わらず好き...っ」 「俺は年々好きが増しちゃってるなぁ♡」 なんだよそれっ! ずるいじゃんっ///// 真っ赤になってるであろう俺は、悠真に肩を抱き引き寄せられると、悠真と一緒に画角におさまる。 「はい、撮るよ」 「うんっ////」 俺と悠真と満開の桜... 今年もこの日を迎えられて嬉しい。 一枚づつ増えて行く俺らの想い出、これからもずっと続くといいな... 「また来年も来ような」 そう言って笑う悠真に、俺も笑顔で返した。 「うん、また来年もな」 また来年も、桜並木の坂の上で―――
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