264人が本棚に入れています
本棚に追加
《第1章》炎の子供
その年は、全てがおかしかった。
先ずは、異常気象に見舞われた。
夏季は気温の上昇が激しく、干ばつの為、見渡す限りの大地はひび割れた。
当然、穀物を始めとした植物の実りは少なく、人々は飢えていく。
冬季に入ると、異常寒波に見舞われた。
僅かな食料で生き延びていた人々は、当然病に犯されていく。
そして通常であれば100年に1度と言われる魔物異常発生。しかし、その年は前回から54年しか経過していないにも関わらず起こった。
様々な厄災が降りかかるその年。
パシュミナ王国の側妃ヴィアティレンシーの懐妊があった。
正妃はまだ子を生しておらず、国にとっては待望の、第一子の出産になるはずであった。
しかし懐妊後より側妃の様子がおかしくなっていく。
体力が落ち、身体がやせ細っていく。
そして常に体温が高かった。お腹が大きくなっていくと共に、更に熱は上がっていく。
それにも関わらず、お腹の中の子供は活発に動く。
異常な状態のまま、日付が替わる夜中、ついに陣痛が起こった。
既に出産が行える程の体力も無い側妃。産まれるはずもない。しかし腹から子供は自らの力のみで産まれた。
燃える様な熱を帯びて産まれた子供は、羊膜をも自分で燃やし産声を上げた。
その熱は爆発するように炎上し、巨大な火柱が上がった。そして自分の母や周りの者を燃やし尽くした。
炎は王城の3分の1を燃やした。王国を護る魔導師が総動員で城を護っても、炎は消えない。
燃える以外に出来なかった赤子は、夜明けを迎える頃、マグマを思わせる赤黒い光に包まれた。
赤黒い光の球体の中に収まった赤子。
球体の中では相変わらず炎が渦巻くように燃えていたが、城を燃やす事は無くなった。
最初のコメントを投稿しよう!