エペルという薬師

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エペルという薬師

白煙が舞う半地下の部屋から、女性を抱えたレオノーラとフレッサは脱出した。 畑に出て再度女性を確認すると、既に気を失っている。 どうしたものかと考えたが、フレッサが正面の店の入口を調べてみると鍵は掛かっていなかったので失礼する事にした。 階段を半階登ると入口があり中に入れる。店内はそれ程大きくなく、壁に沿って薬瓶が並んでいる。奥に少し大きめの丸テーブルと椅子が4脚ほどある。その部屋の入ってすぐに階段。奥に店舗という形を取っているようだ。そして畑は店舗より奥側にあるので、奥に行くと半地下の入口があるのだろう。 奥を調べに行っていたフレッサが戻ってきた。 「奥に炊事場と食材庫、薬草保管庫、小さな湯殿がありました。2階は寝室兼居間ですね。食事は店のテーブルを使っているのでしょう」 「…本当なら湯浴みをした方が良さそうなんですけどね…」 レオノーラは抱き上げた女性を見遣る。 粉に塗れて真っ白なのだ。流石にレオノーラの白銀の髪ほどは白くないが、緑がかった髪の毛は粉まみれ。身に着けたドレスも真っ白だ。 しかし気を失っている女性を、見知らぬ者が湯浴みするというのは躊躇われた。 「粉を軽く払って、寝台に休んでもらうのが良さそうね」 二人は女性の服の粉を払い、2階の寝台に横になってもらった。そして濡れ布で簡単に顔や髪を綺麗にする。 「…とりあえず彼女が起きるのを待ちましょうか。どうやら身体に何か支障がある訳でも無さそうだし。呼吸も落ち着いているし、怪我もない。」 「そうですね。この場で待たせてもらう方が良いですね」 女性には申し訳ないが、何とタイミングが良かった事か。言葉には出さず、二人は目を合わせ思った。 どうするか、手を拱く事態に陥ったかもしれない。そのタイミングで、薬師の家に入り込めた。この出会いであれば、薬師に違和感を覚えられる事も無いだろう。 二人は寝台横にあったテーブルセットの椅子を借りて座って待つ事にした。 ◇◇◇◇◇◇◇ 女性が気を失っていたのは30分程で、頭を抱えながら寝台から身体を起こした。 「大丈夫ですか?」 女性に駆け寄り、レオノーラは声を掛けた。 「…うぅ〜…頭がクラクラ…」 目眩がしているのか、起こした身体の安定感が無い。 レオノーラは女性の身体を支え、顔を覗いた。 多少、顔色が悪い。しかし呼吸が乱れている訳では無い。 医師では無いので、それ以上の詳しい事は分からなかったが、取り立ててすぐに医者を呼ばなければならない状況では無さそうだ。 顔を覗かれた女性は、誰も居るはずのない家に他人がいる事に驚いた。 「…あわわっ…!…あっ、あっ、あ…あなっあな…た…だ、誰 …っ?」 驚いた様で、言葉がかなり乱れている。しかも彼女は吃音の症状が出ていた。 騎士団にもそういった者がいる。 レオノーラは冷静に、笑顔で敵意が無い事を示す。 拒否する様子が無いようなので、そっと抱きしめる。 「大丈夫です。私達は偶然、貴方のお店の前を通りがかった者です。」 背中をポンポンと軽く叩く。その仕草に、彼女は少し身体の力を抜いた。 「…ウルバ自治区に住んでいたのですが、事情があって姉妹で王都に着た所でした」 レオノーラは彼女から少し離れ、再び微笑む。 「いきなりドーンッって音がしたものですから、かなり驚きました。勝手にお邪魔してごめんなさい。」 口調を崩し、フフッと笑う。 「…それは!あり、ありがとう、ございました」 「ホント!良かったです。倒れているところを見てビックリしたんですよ〜。お料理中だったんですか?」 フレッサはワザと彼女にそう言った。私達は偶然ここに来て、何もあなたの事は知らない。半分は本当だが、企みはある。それを感じ取られない為だ。 「…でもまだ目眩があるようなので、お休みになってみては?…私達が居るのが安心出来ないようなら出て行きますよ。…でも心配なので、出来ればお元気な姿を見てからにしたいですけど…」 レオノーラは彼女の頬を撫でながら言った。 「…あっ、…あの…迷惑でなければ…休んだ後に…お礼をさせて欲しいので…ここに…。あ、食料とかもあるので、良かったら食べてもらっても…」 「…ありがとう。では良かったら、起きた後に貴方が食事を出来るように、炊事場に立ち入らせてもらいたいわ」 そう言いながら、彼女を横たえた。 「…あ。でもお名前を知りたいわ。」 レオノーラの問いに、彼女は応えた。 「はい。エペルと言います。この店の店主で、ここには1人で住んでます」 その応えを聞き、フレッサは気付かれないようにそっと部屋の外に出た。
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