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四面楚歌
「…パシュミナから魔術師が消えたとの報告を受けたのですが…、不思議な事もありますね。そうは思われませんか?ジシーク様」
すっかり日は落ち、オルビタ教のパシュミナ支部の神殿内も暗闇に覆われていた。
灯りは、神殿長であるオルーサが手にした蝋燭のみ。オルーサと共にいるジシークの周りが照らされているだけであった。
オルビタ教の創世神の像の前で、二人は話をしていた。
オルーサに言われた言葉に、ジシークは焦りを感じた。
王宮内から魔術師が居なくなったのである。
宰相であるジシークに、事前に報告すらなく。
魔術師が居ないと分かって調査してみると、ルーファス殿下の命令で全ての魔術師は王宮の地下にいるとのこと。
『王宮及び王都に、最近不審な動きがある。良い機会でもあるし、魔術師は全て王宮の地下の魔術試練場にて守護魔術陣の構築に当たらせる。』
ルーファスに詰め寄ったジシークに、ルーファスは言い放った。全ての魔術師をとは、いくら何でもやり過ぎだと抗議してもルーファスは聞く耳を持たず、最後には彼の執務室から追い出されてしまった。
頑なにジシークの意見を排除するルーファスを前に、嫌な汗が流れた。
何故、今。そのような強硬策を講じたのか。
策を講じる側の宰相たる自分が、排除されるその訳は。
そして今、オルーサからその訳を問われている。
何故、魔術師が突然アミナス教へ出立出来なくなったのか。
何故、魔術師はパシュミナ王宮の地下に隠されたのか。
何故、その強硬策に宰相たるジシークが関わっていないのか。
むしろ何故、排除されたのか。
それはジシークがアミナス教の内通者だと、パシュミナ王族に勘づかれたのではないか。
「存じかねます…」
ジシークは俯き、目を閉じてオルーサに答える。
「存じかねる…か…。…ほう…閣下は己の口で、“自分はその策には携われていない“と言われるか…」
宰相としての立場が無くなってきている。自らそう言うか。更にオルーサに問われ、ジシークは最早口を開く事すら出来ない。
ジワジワと、崖っぷちに追い詰められる様な焦燥感に苛まれる。
「…勿論…聡明な宰相閣下の事ですから、魔術師の解放の方法等も…策を講じていらっしゃる…そう信じても宜しいのですね?」
ジシークにその策を問うでもなく、オルーサは笑顔を見せ言う。暗闇の中で蝋燭に照らされた顔は、更にジシークを追い詰める。
口に出せる言葉は一つしか無かった。それ以外は許されていなかった。
「…御意」
「…宰相閣下…お止め下さい。私は貴方に傅く立場の者ですよ」
敬ったジシークの言葉に、オルーサは笑って言う。これ程までに口外で命令しておいて『傅く』と言う。
「宰相閣下の手腕を信じております。当然です。…貴方には明かせない秘密がある。後戻りの出来ない方の覚悟…お見せ下さいますね?」
しかしジシークを更に追い詰める事が、翌日起こる。
潜入捜査を行っていた自分の息子が、教会にとって重要な『聖水の造り手』の捕縛。そして『聖水』を受け取りに行った教会の使徒の討伐を、寄りにもよってレオノーラの指揮の元行われたという情報がもたらされたのだった。
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