水色の魔術師の言葉

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水色の魔術師の言葉

エペルを助けたあの日以降、レオノーラとフレッサはエペルの家にいた。 王都で仕事を探そうと思っているが急いではいない。ゆっくり身体を休ませてから働く予定だと言った2人をエペルが引き止めたからだ。 今依頼を受けている薬の製造に必要な材料を、この前の爆発で駄目にしたので、最初からやり直さなければならない。しかし期限が迫ってきている。だから手伝って欲しいとエペルは言った。 あまりのタイミングの良さに、エペルはレオノーラやフレッサを何かしら疑っているのでは?とも考えた。しかし疑われたとしても、この手を取らない手は無い。 それにエペルが何かしら策を講じるとしても、エペルの普段の機敏さや言動、受ける印象からも脱出が不可能になる事は無いのではないか?そう二人は判断し、エペルの手伝いを快く受けた。 「ありがとう。これだけ収穫したのを干す事が出来たら…明日から加工出来る」 エペルの家に滞在して2日、3人で畑や森に薬草を採取しに行き、目標の量まで下処理が済んだ。 その間の交流で、エペルは2人に話す時に吃る事も少なくなった。馴染んできたのだろう。 確かにルーファス殿下の命で潜入捜査を行う2人であったが、エペルは普通の女性で、出来れば彼女に危害を加えることはしたくないと考えていた。 薬はあと3日で、依頼人がエペルの店に取りに来ると行っていた。 薬草採取を手伝ったので、材料は判明した。 あとは魔術陣に関してだけ。魔術陣に関しては、レオノーラも見て理解する事は出来た。ただレオノーラは使えないだけで。 あとは明日から作業すると、エペルは今日の作業を切り上げた。既に日は落ち始め、空の端には夜の闇が迫ってきていた。 「…明日から…造らなきゃ…」 外を窓から見ながらエペルは呟いた。 遠い目をして、空を見ていた目線が下に落ちる。その仕草は、造りたくないと訴えているように見えた。 「…?…造りたくないの?」 レオノーラはエペルに近寄り、隣で話しかける。 「…えへへ…、仕事を選んで出来る程…商売上手じゃないんだけど…本当は…」 泣きそうなエペルの頭をレオノーラは撫でた。 「…しなきゃダメなの?断れないの?」 レオノーラの言葉に、エペルは目を細め小さく微笑む。 「…レオノーラは…綺麗だね…」 「…え?」 突然話が変わり、レオノーラは躊躇った。 しかしエペルは構わず、レオノーラの手を取って話し続ける。 「…とても綺麗な魔力…、光り輝いている…お月様みたい」 目を合わせ、エペルは言った。 市井のエペルが、魔力を感じとっていた。 「…凄く人を“癒す“光…。…前にね、師匠とお別れする時に会った人がいたの。」 話の流れが掴めないレオノーラは、エペルの話に耳を傾ける。 「…凄く…レオノーラみたいに魔力が溢れてる人で、水色の魔力の…人……その人に、これからは“毒“は造らずに市井で暮らすように言われて…こんな遠くまで来たのに…。…約束…破っちゃった…」 「…何故、私にそんな事を?」 エペルは『毒』を造っていると言った。 わざわざレオノーラにその話をするという事は、やはりレオノーラが何かしら自分に害なすと思っているのかもしれない。 「…えへへ…レオノーラの事なら信じても良いなって…。その白銀の魔力で…とても癒されたの…。私は…捕まっても良いよ?…水色の魔術師様との約束も守れなかったし。」 「…水色の魔術師?」 「うん…師匠…アリアドナ王国にいたヴィペールって薬師だったんだけど、悪い人だったの。…それで、水色の魔術師様に殺された。…私は…見逃されたの。…その時に言われたの」 “これからは毒は造るな“と。しかし今のエペルは彼との誓いを破り、師匠の技術を使い“毒“を造っている。 エペルは事実を、懺悔するようにレオノーラに話す。 「…だけど…怖い人に造るように命令されて…」 「…その怖い人が、3日後に来るの?」 「…うん。でもその前に…レオノーラに連れていかれるなら…レオノーラ達が怖い思いしなくて良いし…」 どうやらレオノーラ達が、自分が家に引き止めた事で怖い人に害される事を懸念しての自白だったようだ。 やはりエペルは優しい女性だった。 「……レオノーラ…貴方の側は『心地好い』…」 首を傾け、悲しそうな笑顔で微笑む彼女の言葉は、レオノーラにティグラートの言葉を思い出させた。 初めて会った彼が、レオノーラに言った言葉の一つだ。 「…エペル…私はあなたを護りたい。自らを犠牲にして私達を護ろうとした貴方を、私は護る」 市井のドレス姿の、女性のレオノーラは跪きエペルに誓う。 「…どうか私達を信じて下さい。必ず…護ります。」 それを部屋の扉の向こうで、フレッサは見ていた。 上司のレオノーラが、エペルを護ると言った。 では、フレッサがする事は一つだ。 同じく共に動くと誓った騎士のフレッサは、最善を尽くす為に魔術陣から伝文を伝える為の鳥を生み出した。
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